第5話

ネクとシェフィルは、死蟷螂デスサイズと道中で見つけた旧世代の車両の残骸を車両に積み込み、もう少し廃墟を歩き回ると帰路へとついた。


冒険者にとって、基本的に廃墟の探索は日帰りで行うものだ。

砂漠で夜を明かすのは金がかかる。

寒暖差が激しいため温度調整エアコン代が馬鹿にならないし、砂に塗れるため機体のメンテナンスも欠かせない。シェフィルが購入したこの車両にはそういった装備も用意されているが、何か事情がなければそうすることはないだろう。



「やったわね。死蟷螂とか、一人ソロでやってたら逃げてたわ。

 ネクと、チェスのおかげね」

「ううん、シェフィルさんの狙撃の腕が良かったんだよ」


ネクは車両を運転しながら、上機嫌なシェフィルと会話をしていた。

死蟷螂の討伐がうれしいのと、今回の廃墟は他の冒険者が資材を漁った様子もなく、しばらくはあの廃墟で稼ぐことができるからだろう。

そして、何よりも自分一人で行けなかった廃墟未知に行くことができるようになった、という実感が嬉しいに違いなかった。


その気持ちは、ネクも十分に理解できた。



「ネクは、楽しかった?」

「うん。あんないろいろなものが見れるとは、思ってなかった。本当に良かった」

「……なら、冒険者を辞めるなんてことはないわよね?」


シェフィルの言葉にネクは、口を噤んだ。



「親しい人がいなくなって、せっかく買った機体も壊れちゃって、落ち込んじゃうのはわかる。『そんなことで』とは、とても言えないけど……でも、冒険者を辞めちゃうのは、もったいないな、って思うの。

 だって、こんなに面白いこと、他にないと思うし……

 なにより、折角こうやって、廃墟巡りの仲間に出会えたんですもの」

「……最後が理由ですよね」


ネクが指摘するとシェフィルがごまかすように笑い、ネクも苦笑する。



「でも、ありがとうございます。

 ……すぐに辞めるつもりはありませんでしたけど、でも、正直悩んでました。

 冒険者にあこがれてましたけど、外の世界を見たいって人はあんまりいなくて。

 他の冒険者の人は勿論、ロッグさんたちも優しかったですが、やっぱり理解はしてもらえなくて。

 ……シェフィルさんに会えてよかったです……今は、お金どうやって返そうか、ってものすごく悩んでますが」

「あ、待って」

「?お金を返そうか、ってところです?いやでもそれは……」

「あ、ううん。そこじゃなくて……名前」


シェフィルが指をネクに突きつける。



「私がネク、って呼び捨てにしているのに、ネクはいつまでもさんづけで、なんか畏まった物言いじゃない。

 せっかく相棒ペアになったんだから、もっと気軽に話してちょうだい」

「え、ええ……でも先輩ですし……」

「じゃあ先輩命令よ、ほら。気軽に、チェスと話してるみたいに」

「うーん……

 ……わかった、シェフィル、よろしく」

「うん、よくできました」


ぱちぱちと拍手して見せるシェフィルに、ネクはため息をつきつつも、笑顔を取り戻していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る