第2話

「この前『機母マザーウィル』を討伐した廃墟は冒険者も多いみたいですね。

 ドローンがため込んだ資材を回収するのが実入りがいい、っていう話です」

「そう、でもその分、競争率高そうね。

 それにせっかく車両を買ったんだから、近場よりも普段行ってない場所のほうがいいわ」


シェフィルの言葉にネクは頷く。

2人は機体ごと車両に乗り込むと、ロボットのコクピットから降りて運転ルームへと移動していた。


本来コクピットは気密措置が施されており、開閉は冒険者ギルドでしか行えないようになっている。車両に乗る場合も、ロボットごと乗り込みハンガーに括り付けても、冒険者はそのままコクピットに座したままだ。実際にネクも、ロッグらと冒険に出たときはそのようにしていた。


が、シェフィルがこの車両は高級モデルであり、車両そのものに高レベルな気密措置が施されている。冒険者が降りて中で寛げるように、休憩室やトレーニングルーム、シャワールームまで備えたもの。

それ故ロボットのコクピットを開閉できる機能まで搭載されており、冒険者がロボットに乗っていなくても、自衛するための火器管制システムまで備えている。

こういった車両はごく一部の、トップクラスの冒険者がパーティで購入するようなものである。車両というのは、冒険者が何人か集まり、借りて運用するものだとネクは認識していた。シェフィルが個人で買うといったときは、ネクはもちろん、冒険者ギルドのアルマも、車両のディーラーも真顔になった。


どこからそんな資金が出ているのが、さすがに気になってネクが訪ねてみたが、シェフィルはずっと一人で冒険者をやってきたため、機体のメンテナンス以外では金を使わず、貯金がかなりあるらしい。

決して都市の税金とかから出しているわけじゃあないとのことだった。

ネクは納得したが……実際このような財力を見せつけられれば、下衆の勘繰りをする人も出てくるのだろうな、と彼女に対する悪評にネクは心を痛める。



「じゃあこちらにしましょうか?

 都市キャラウェイから約74マイルの廃墟。車両の燃料的には往復してもまだ余裕はあります」

「うん、いいわね。行ったことがないから楽しみ」


車両に搭載されたマップ機能を操作しながら、ネクは目的地に目星を付ける。

マーカーを設置すると運転席へと向かった。

こういった車両の運転席は、ロボットのコクピットの操作系統と同じように作られているため、冒険者なら多少練習すれば運転可能だ。

理由はともかく、ここまで金を出させてしまっている以上、せめて雑用事は全部自分がやろうとネクは考えていたため、運転手を買って出ていた。



「じゃあ、そちらに向かいます。到着までは、ちょっと時間がかかりますね」

「わかったわ……じゃあちょっとシャワーいただいてこようかしら。蒸れるのよねコレ」


シェフィルは自身のパイロットスーツを指さす。

ロボットの操縦の際に生じる擦過傷などを予防し、もしロボットが損傷したときの生命維持装置にもなるパイロットスーツは、体に密着するために着心地はよくはない。

シェフィルの着ているそれは勿論高級モデルであり、通気性もだいぶマシではあるのだが、それでも解消には至っていない。

ちなみにネクが着ているのは、作業着のようなつなぎである。

基本的に、冒険者はパイロットスーツなんて高価なものに金を出す余裕はないため、思い思いの恰好をしているのが一般的だ。

なおシェフィルはネクの分のパイロットスーツを買おうとしたのだが、ネクは頭を下げて勘弁してもらった。


これ以上金を出してもらうと申し訳がないというのと、なんかもう怖くなってしまったのだ。



「ふぅ……」


シェフィルが出て行った運転席で、ネクは一つため息をついて……砂漠を進んでいった。

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