第3話
「……ここに?本当に居るの?エンジニア」
「ええ、僕の知り合いで……信用できる腕のいいエンジニアなら彼女しかいませんよ」
シェフィルとネクは、二時通りの工房街の、裏路地に歩を進めていた。
そして看板が見えてくる。
『チェス・オートマチック・インダストリ』と書かれた手書きの看板は、前見たときよりやや傾いていた。
シェフィルが少々うろたえる中、ネクは一歩進んで声を上げようと口を開いた。
「待って!本当に待って!来月!来月にはちゃんと払うから!」
「やかましい!!それをお前は先々月と先月にも言ったんだぞ?!」
「今度こそ本当!一生のお願いだから!!」
「その言葉は九回聞いた!お前何回生き返ってんだよ!!」
その直前に店から怒号が聞こえてきた。
ネクとシェフィルは顔を見合わせ、2人してゆっくりと中の様子を覗き込む。
「今度こそ本当だから!客から纏まったお金が入るの!本当!」
「それ4か月前から言ってるだろうが!」
「4か月前の人とは別よ!」
「じゃあそん時払えただろうがテメエはァァァ!!」
そこに居たのは大柄な男性と、エンジニアの女性……チェスだ。
チェスはいつものとおりで、男性も油汚れのついた作業着を着ており、同業者のように見える。2人ともネクらには気が付かずに口論していた。
チェスの言葉に激昂したらしい男は、チェスの肩を掴みガクンガクンと彼女を揺さぶる。
「ちょっと、やりすぎ……!」
たまらず、ネクが仲裁に入ろうとしたが……足を一歩踏み出したところで、男はしくしくと泣き出した。
「お前よう……腕は良いし店が潰れるのは偲びねえから、皆が工面してくれた金なんだぜ?
なんで返すつもりがねえんだよ……なんで収入があってもすぐ投資しちまって借金返さねえんだよ……
親方なんてお前のことを信じて、身銭を出したって言うのによ……!」
「だって第三次機体のスクラップよ!今逃したら次いつ出るかわからないもの!」
「それで返せっていってんだよお前は!!」
激昂する男だったが、ここでようやくネクたちの存在に気が付いたようだ。
苦い顔をして、荷物をまとめる。
「いいか!本当に来月までだからな!」
「そう言ってあと1年くらいは待ってくれたりしない?」
「するかバーカ!!」
男が立ち去ると、ふう、とチェスは一息ついた。
ネクとシェフィルに向き直ると、ニコッと笑顔を見せる。
「いらっしゃいネク!それと新しいお客さま!今日はいいモノ揃ってるわ!ささ、有り金はたいて買っていって!」
「ねえ?本当に、腕のいいエンジニア?」
ネクは、真顔で質問するシェフィルに返す言葉が見つからず、しばし立ち尽くしていた。
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