第2話

「私、この辺り来たことが無いのよ」

「え、そうなんですか?」


シェフィルと並んで歩くネクは、意外だ、という声を上げる。

2人は冒険者ギルドを出て、工業区のある二時通りを目指して歩いていた。

……先ほどの「付き合って欲しい」というのは別に男女交際をしたいのではなく、単に買い物の共を欲していただけだったのだ。

ネクは了承したのだが、その時アルマが「……いえ、それデートでは?」と呟いたのは誰にも聞かれてはいなかった。



「エルフだからね、どうしても目立つのよ。

 耳を隠してもやっぱり、分かる人には分かっちゃうし。

 自分があんまりよく思われてないことは解ってるから、最小限に済ませちゃうのよね」


そういうシェフィルだが、確かにとネクは頷いていた。

彼女の背は一般の人間のそれよりも高く、男性であるネクと同じかそれよりほんの少し高い。

また容姿も浮世離れした美しさだ。

今は耳や顔を隠すため、ヴェールに防塵スカーフを顔に巻いているものの、素顔を見たら十人のうち九人は振り返るだろう。



「確かに、美人ですものね」

「……ストレートに言われると、恥ずかしいわね。

 ま、まあとにかく、エルフって色々とやっかみを受けるのよ。

 あなたも聞いたことくらいはあるでしょ?」


ネクは少し間をあけるが、隠しても仕方が無いと判断した様子で頷いた。

エルフはその能力を持って、都市の法律や制度などを運営する為政者である。

民主主義という概念は旧世代の大戦以前に無くなっていた。

というのも、大衆の大半は政治や法律のことなど、考えるのが面倒だったからだ。

為政者がきちんと仕事と衣食住を提供する限り、政治形態など誰も興味が無い。

それ故、エルフ達による寡頭政治が一般化していた。

だが、為政者というだけで、敵愾心を向ける人間も多いのは昔から変わらない。



「だから今回は、信頼できるエンジニアを探しているのよ」

「エンジニア?」

「ええ。私の機体の整備とか、武器の調整とかをお願いできる人ね」

「……ええと、わざわざどうして?」


ネクは疑問を投げかける。

機体の整備については、ほぼ全ての冒険者が冒険者ギルドの整備員に任せている。

機体は基本的にギルドの格納庫に預けるものであるため、そちらの方が効率がいいし、整備員の腕は確かだ。

そうしないのは一部の偏屈な冒険者か、あるいは特殊な装備や機構を持つ機体のため限られた職人でしか整備出来ない場合のみ。

ネクが見た限りでは、シェフィルの機体は高価ではあるがすべて民生品であり、特殊な装備はなかったと記憶しているのだが。



「この前の依頼の時、私の銃のスコープ、あれに細工されてたのよ。

 照準がずれる様になってたの」

「……え、は?嘘、そんな!」


冒険者は高額の報酬を得られるとは言え、命を賭けているのだ。

嫌がらせや悪戯では済まされない、それも身内に行うなどありえない。



「ま、もちろん偶々、整備員が調整をミスしちゃった可能性はあるし、ギルドにはちゃんと正規手段で申し入れはしたから、これ以上は何も言わないけど。

 でも、ギスギスするのも厭じゃない?

 だからエンジニアを探してるってわけ」


ネクはあっけらかんとしたシェフィルの態度に唖然とする。

まるで、この程度のことなど良くあることだと言わんばかりの様子だったからだ。

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