第四章 砂塵の仲間

第1話

――『機母マザーウィル』討伐任務から一週間ほど時間が経った。



ネクは、今日も冒険者ギルドのロボットの格納庫に来ていた。

部屋の隅の椅子に腰かけ、冒険者のロボットが出発したり、逆にハンガーに格納される様子を見ている。

その表情はどこか能面のようでぼんやりとしており、いつものような生気を感じさせなかった。



「ネクさん」


声をかけられ、ネクはそちらへと首を向ける。

そこにはアルマ……ネクを担当している冒険者ギルドの職員の女性の姿があった。



「身体の調子はどう?まだ具合が悪いの?」

「アルマさん。

 ……いえ、大丈夫です。

 医療設備メディカルキットに入れてもらえましたから」


ネクはその場で立ってみせ、何ともないと身体を動かしアピールして見せる。

――先の戦いで機体を自爆させることで、『第三次機体アドバンスド』を仕留めたネクだったが、機体はほぼ大破してしまった。

当然、いくらコクピットが頑丈とはいえネクの身体も無事ではすまず、大小合わせて思い出すほども億劫なほどの個所を骨折し、火傷や裂傷にまみれていた。

おまけに、コクピットの気密性も担保できなかったため、汚染された空気も吸い込み毒にも犯されていたのだ。


手遅れになるほどではなかったが、治療に数か月はかかるところを、共に第三次機体を討伐したシェフィルが口を挟んだ。

都市でも有数の金持ちや、トップクラスの冒険者でなければ使えない、旧世代の高度な医療機械を用いてネクを治療したのだ。

治療用の大きなカプセルに入って一晩眠ったネクは、翌日には負傷はすべて回復していた。



「……僕だけが、助かってしまいました」

「ネクさん」


沈痛な表情を浮かべ俯くネクに、アルマは思わずネクの腕をつかむ。



「あなたがロッグさんたちと仲が良かったことは知っているわ。

 彼らが亡くなったのは本当に惜しい。

 冒険者ギルドとしても、一個人としても。

 でも、それとネクさんが生き残ったことは、関係ないじゃない。

 私は、ネクさんが助かって本当に、良かったって思っているの」

「……アルマさん」


ネクは僅かに首を持ち上げる。

目と目が合う。

アルマの言葉は確かにネクに届いた様子ではあったが、しかしネクの目にはまだ、悲しみが浮かんでいた。

――これは、立ち直るには時間がかかるかもしれない。

アルマがそう思い、それでもなお何か、ネクに言葉をかけようと口を開いた時だった。



「ここに来ていたのね。探したじゃない」


ネクとアルマがその声に首を向ける。

シェフィルだった。

冒険者である彼女がここに居ることは別におかしくないのだが、しかし今日は機体に乗っているわけでもなく、パイロットスーツも着用していない。

白基調のワンピースに赤色のケープ、そして頭にはヴェールのようなものを身に着け、そのエルフとしての特徴的な耳を隠していた。

一瞥すれば、いいとこのお嬢さん、としか見えないだろう。



「シェフィルさん……その、医療設備の件、ありがとうございます。

 あんな大金、いったいどうしてお返しすれば……」

「あれくらい、いいわよ。

 あの場では怒っちゃったけど、あなたに助けられたのは事実なんだから」


首を振るシェフィルだが、ふいに「あ、でも」と口に出す。

細い指を自身の口元にあてて、何かを考える素振りを見せた後、うんと頷いた。



「そうね、ただ……もし、ちょっとでも負い目を感じているなら……付き合ってもらえない?」

「「…………え"?」」


シェフィルの言葉に、ネクとアルマがそろって声を上げた。

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