第2話

軍事用のドローンに求められたのは、生物兵器のような「全自動的に敵国を疲弊させる」だけでなく、人間への積極的な加害性だった。そうしたコンセプトのもとに造られたドローンは、大きく分けて3つの能力を持たされた。


敵国に気取られずに侵入可能な隠密ステルス性。

ハッキング防止のための自己独立スタンドアローン性。

そして、現地で戦況や環境に合わせ、自身を複製・修繕・改良を施せる自己判断改造オートメーション能力。



これらの能力は端的に言えば……任意の場所に、戦闘用ドローンを大量生産するための工場、前線基地フロントラインを作るものだ。



そして一度生産が始まってしまえば、周囲にある物資を際限なく消費し、戦闘用ドローンを生み出し続ける。生半可な攻撃は瞬く間に修繕してしまうどころか、解析されて対応策を講じることができる。


その工場の拡大の過程に、何があろうと……むしろ、人間が居ようものならプログラム通りに駆除する。


これが大戦末期に生産され、今でも休眠状態のまま各地に潜んでいるドローン……通称『機母マザーウィル』。

都市の存亡すらありえる、災害の名前。





ブォォォ━━━━━・・・・・・


ロボットに搭乗し移動用の車両に乗り込んだネクは、操縦席で項垂れるようにしていた。

買い取った機体は清掃され綺麗になっており、チェスの店で購入したカメラは車内の様子を映し出していた。


ネクはドローンについて、冒険者講習で良く聞かされている。


ドローンが危険な存在であること。

ドローンの討伐は冒険者にとっては義務であること。

そしてドローンは生物兵器らと比較すると、その危険度は高く命を落としかねない相手であること。


実際に相対することになるのは今回が初めてであるし……前線基地フロントラインの破壊も当然、初だ。

未だに現実味がないネクは、端から見ると所在無げに、言を呟くでもなく沈黙していた。

ふと機体の私信回線がオンラインになった。

チャンネルに表示されたのはロッグだ。

ネクはすぐに応答する。



『大丈夫か?ネク』

「ロッグさん……」

『お前は初心者でいきなり、駆り出されたからな。

 不安になっているかと思ったが、やはり正解だったか』


ロッグの言葉に、ネクは頷く。



第二次機体スタンダードの相手をするのは俺たちだ。

 ブロンズランク以下は、討伐隊の拠点防衛、第一次機体ベーシックの討伐が主だ』


通信越しに、ふっ、と緩んだ空気が伝わる。



『ネク、俺も最初はそうだった。勿論ベリやルガもな。

 俺たちに街の運命がかかってるんだって、息まいてプレッシャーを感じて、な。

 だから心配するな……とは言えないが、しかし過度に緊張する必要はないんだ。

 ドローンは強いが、しかしその行動は概ねパターン化されている。

 対ドローン戦闘については、講習で学んだただろう?

 教本通りに、そしてブロンズランクを引率するギルド職員に従って動けば間違いない。

 だから、落ち着いて気を抜け、だが油断するな』

「……はい、ありがとうございます!」

『ああ。

 ドローンの討伐報酬は旨いし、ドローンの持つ装備は、俺たちの機体とも互換性があるからな。宝の山が襲ってきていると思って、かかればいい。さあ、稼ぎに行こう』


しばらくして車両が止まる。目的地に着いたのだ。

ネクは息を鋭く吐くと、操縦桿を持つ手に力を込めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る