第5話

冒険者ギルドはロボットの格納庫や整備所、物資の一時貯蔵や一次加工なども行う工房も備えた巨大施設だ。

何体ものロボットが格納庫に入っていく……そのうち何体かは腕を欠損していたり、動力を破壊されて車両に載せられているものもある。

それを尻目に、ネクは中へと入っていった。



「はい、これで貸付機体の買取は完了しました。

 ネクさんの機体の電子キーを端末に送信します……はい。

 ライセンスは既に発行していましたけど、これで本当に冒険者ですね」

「ありがとうございます、アルマさん」

「いえいえ、ネクさんの頑張りの賜物ですよ」


受付側にある面談用の簡素な個室で、ネクはアルマと話をしていた。

前回の廃墟探索で使用したロボットは、冒険者ギルドの所有物……借り受けていたものだ。

冒険者を目指す者にとって、最大の障壁はなんといってもロボットの購入資金にあった。

元は作業用機械であり戦闘用に改造したものであるロボットは、滅茶苦茶に高価ではないが、しかし安価でもない。

そこで冒険者を目指す新人にはギルドで機体を貸し出し、その報酬で機体を買い取る制度が確立していた。

冒険者が持ち込む物資は貴重であるため、都市も補助金を出して制度を支援しているものの、自分だけの機体を購入するというのは、新人にとっての登竜門なのだ。



「でも一回の冒険で購入できるなんて……冒険者ってこんなに稼げるんですね」

「うーん、偶々今回が大当たりだった……って言う感じです。

 冒険者は命がかかっている分、高給ではありますけど」

「あ、そうなんですか」

「あれだけの数のコンピュータは、そうそう見つからないですし。

 収支マイナスになっちゃう方もいますからね。

 今回を基準にしちゃダメですよ。

 本当は2~3回くらいかけて機体を購入するんで」


ふんふんと頷くネクに、アルマは身に着けている赤く細い眼鏡のフレームをクイっとあげ、得意げに話していた。

ネクもある程度は勉強しているし、ギルドで実施している講義でも習うのだが、こういった現場の実情など知らないことは多いからだ。



「あ、そうだ。購入した機体にパーツを設置したいんですけど」

「え、もうカスタマイズパーツを購入したんですか。早いですね」

「武器とかじゃなくて、カメラを取り付けたくて……」

「カメラですか?はい。わかりました、では整備所に通達するので……どちらのメーカーの品になります?」

「ええと、個人の工房で、店名は『チェス・オートマチック……」


そうして話をしていると、バタンバタン!と何かが倒れるような物音が聞こえた。

人の怒号や、ざわつくような声も聞こえてくる。

ネクとアルマは顔を見合わせると、個室を出て様子を見に行った。

受付には何人かの冒険者の姿があった。

彼らもまた何がどうなっているのか、という表情で受付へ目を向けていたが、やがて厳つい体格の男性が奥から出てくる。

「ギルド長」とアルマが呟くのが聞こえた。



「……冒険者諸君の端末には、この後通知する。正式な依頼はそのときに出すことになるが……」


男性はこの場にいる冒険者らに目を向けると、ゆっくりと口を開いた。



「都市より南西の廃墟にてドローンが発見された。

 調査機体ではない。多数の作業機体に戦闘機体も確認されている。

 間違いない……ドローンの前線基地フロントラインが築かれつつある。

 諸君らにはこれの討伐に当たってもらう、これは義務命令だ」


自然と、ネクは身が震えた。

殺人ロボットたちが、迫ってきているのだ。

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