第2話

ネクの住んでいる都市キャラウェイは円形をしている。

これは周囲の砂漠から飛来する砂や毒ガスなどの有害物質から身を守るため、周囲に特殊な磁場を張っているためだ。

都市の中央には巨塔が存在する。

それは都市を維持するエネルギーを産み出しているとともに、その機構の維持管理や、街の政治を執り行うエルフたちの住居でもある。

それ故か都市の建物がコンクリートで作られているのに対し、塔は特殊な合金で作られているらしい。

その巨塔から放射線状に12本の太く長い道が伸び、これらは時計になぞらえて「~時通り」と呼ばれている。


ネクは、八時通りにある宿から十時通りへと向かっていた。

このあたりは住宅と様々な店舗が入り乱れる居住区であり、特に十時通りには大きな市場がある。

日も登り、少し早い昼食を取ろうかとも思える時刻ともすれば、市場は人でごった返していた。



「今日は培養肉が安いよ!ワイデル社の培養肉だ!」

「お嬢様、老舗アローズ社の服はどうです?ええ、合成フィブリルです!お目が高い!」

「卵は切らしちまったなあ」


通りの左右には大小さまざまな店が自慢の商品を並べ、店員が声を上げて宣伝する。

沢山の街民が行き交い、気に入った店の前で足を止めて商品を眺め、店主が愛想よく話しかける。

いつものことながら活気のある光景に、ネクは気圧される思いだった。

高級品である鶏胸肉に目を奪われながら、ネクは目的の店に到着する。



「おっ、ネク!帰ってきたか!」

「アードルフさん、ええ!冒険者になりましたよ!」


通りから一歩路地に入った場所にある小物屋にネクは足を踏み入れていた。

こじんまりとしたが落ち着いた店内に、背が低く髭がボウボウに生えた男性がノシノシと歩いてネクに近づいてくる。

彼はこの店の店長であり、『ドワーフ』だ。

『ドワーフ』とは『エルフ』と同じく遺伝子改良を措置された人類で、頑強な身体と毒に対する耐性を持っている。

そして見た目に反し手先は器用であるため、大戦においては労働者や兵士として、ある国で積極的に生み出されたらしい。

現在ではその特性を活かして金属類の加工業や力仕事に従事していることが多く、冒険者になるドワーフも居る。



「そうか、そうか!あの小間使いのガキが立派になったな!俺よりも背が低かったのに!」


アードルフは破顔する。



「じゃあ今日はアレが目的か?」

「はい、頼んでいたやつです、まだありますか?」

「勿論だとも!男の約束は違えねえよ!」


そう言うとアードルフがノシノシと歩いて店の奥に引っ込む。

そしてすぐに、小さな箱を2つ持って戻ってきた。

入っているのは、貴金属で作られた綺麗なブローチとネックレスだ。



「やっぱり、綺麗です」

「当り前よ!俺が夜も寝ないで昼寝して研磨したんだからな!ここの細かい装飾とか頑張ったんだぜ」

「ありがとうございます!冒険者の初給料で買うって決めてたんです」

「はっはっは!そいつは殊勝な心掛けだ!……で、誰に渡すんだ?どんな女だ?胸はデカいのか?」

「あ、宿のベアさんとサンちゃんに」

「なんでえ!!意中の女に告白するとかじゃねえのかよ!!」


アードルフは豪快に笑っていたかと思うと思い切り顔をしかめてへの字に口を曲げる。

ネクはそんな様子に苦笑しながら、話を変えるために「そういえば」と漏らす。



「エルフの冒険者に会ったんですよ」

「エルフぅ?なんだってそんな連中が」

「女性で、初めて見たんですけど、やっぱりすごく綺麗ですね、なんか物語から出てきたっていうか……」

「……あー、ネク。やめとけよ。エルフのお嬢さんがどういうつもりで冒険者やってるのかは知らねえが、手を出すようなことは……」

「いやいやいや!そうじゃあないですけど!」


ネクとアードルフの問答は、しばらくの間続いた。

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