第9話

白い機体がドッグに入り、コックピットが開く。

そこから出てきたのは、小柄な少女だった。

金髪を結わえていて、目は碧色で少し釣り上がっている。肌は白く、そして耳が細く長い。

噂に聞いたエルフの容姿を見て、ネクは、見惚れていた。


「ああ、シェフィルさんですね」


そういうアルマの表情は、煮え切らない様子だった。

どこか含みのある声色である。

ネクは首をかしげた。


「嫌いな人なんですか?」

「いえ、嫌いというわけじゃあないけど……どうにも苦手なのよ。

 エルフの冒険者なんて彼女だけだし

 気難しいから、どれだけ勧めてもパーティを組もうとしないし……実力は確かなんだけど」


アルマの話を聞きながら、ネクは脚立を使いコックピットから降りてくるシェフィルを見ていた。

彼女が髪紐をほどくと、長い金髪が翼のようにふわさっ、と広がる。

身に着けているのは、ロボットに乗り込む際に本来用いられる正規品のパイロットスーツだ。

耐摩耗性や耐熱性に優れ性能は良いが高価なため、ネクのような一般の冒険者ではまず使わない代物。

彼女の容姿も相まって、ムービーのワンシーンのようにも思えた。


「先ほどシェフィルさんに会ったんですよ、コンピュータを回収するときに……」

「そうなの?……ああ、確かにそう報告が上がってるわね。

 なるほど、それで彼女が気になったの」


アルマは合点が言ったといった具合に頷いた。


「大丈夫よ、報酬の査定は公平に、責任をもって行われるわ。

 彼女がエルフだからって、特別な配慮とかは無いから安心して。

 冒険者ギルドとして、そこはしっかり約束させてもらうわ」

「あ、はい」


ネクは曖昧に頷いた。

アルマは、ネクが彼女を気にするのは、そういった査定の部分に影響するのではないか……と思ったのだろう。

エルフは支配者階級、街民にとっては天上人だ。

だが冒険者ギルドはそういった忖度などとは無縁である。

しっかりと冒険者をサポートし、彼らの仕事には正しく報酬を払う。

そうしなければ、街の運営ができないのだ、それを知らないエルフなどいない。


「あ」


そんな会話をしていると、シェフィルがこちらの目線に気が付いたようだった。

彼女は整った顔をネクたちに向けている。

目が合ってしまったネクは、一瞬怯んで、すぐ頭を下げる。

シェフィルは不思議そうな表情を浮かべたまま、その場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る