第7話

ネクたちは、コンピュータをコンテナに積み込み『装甲蟻』の素材をワイヤーで結び機体に背負うと拠点にしたビルを後にする。

廃墟前に駐車してある車両へ向かい、周囲を警戒しながらも帰路につきはじめた。


『ロッグさん、本当なんですか?さっきの……シェフィルさん、の話』

『ああ、そうだ。彼女はエルフだよ』


ネクは、信じられないといった様子だった。

『エルフ』は簡単に言えば遺伝子改良を施された強化人間である。

旧世代……かつての大戦が起きる前、特に政治家や一部の科学者などの指導者階級に施術されていた。

頭脳の演算機能や身体能力は人間のそれを凌駕し、寿命も飛躍的に延びている。


『でもエルフなら、何でシェフィルさんは冒険者に?』

『さあな、そこまでは知らない』

『直接聞こうとも思わねーしな』


現在でも街の指導者の多くはエルフであり、市井で生活するネクたちとは直接的な関りは殆どない。

逆に言えば、本来エルフは冒険者のような仕事をするはずがないのだ。

女性の冒険者はいろいろな理由があって少ないが、エルフの冒険者など彼女以外にいないだろう。


『いっつもソロで活動してるみてーだしな』

『そうなんですか……すごいですね、一人で、しかもシルバーなんですよね』

『ああ。実力は確かなようだ』

『ケッ』


ネクとロッグの言葉に、ベリは悪態をつく。

ベリは彼女のことを随分と嫌っているが、せっかく見つけた儲けの一部とはいえ渡さねばならないのだ。

それに対して悪感情を持つのは仕方のないことだと言える。

実際、ルガは不機嫌なのかさっきから一言も話さないし、表には出さないがロッグも面白くなさそうな様子だった。

腹を立てないのは、まだそういった辺りには疎い新人のネクくらいだろう。


……そういう話をしている間に目的地に到着する。

冒険者ギルドより貸与されている、機体や資材を運搬するための大きさの車両が駐車してあった。

電子鍵を起動し、コンテナや素材を積み込み、最後にネクたちが機体のまま乗り込む。

全員が中に入るとドアが閉じる。

車両は自動運転で街へ向かうようになっており、廃墟を出発し、砂漠地帯を走り始めた。

こうなれば、何かしら非常事態が発生しない限り冒険者にすることはない。


『少し早いが、皆、お疲れ様』

『おつかれさん! ふー、今回は期待できそうだな』

『コンピュータが10台にサーバ類が4台、電子機器がいくつかに……いくらか引かれても十分だろう』

『早く帰って一杯やりたいな』


仕事を終えたロッグたちが雑談を始める。

今回の利益や、帰った後の酒の話をする中、ネクは相槌を打ちながらも別のことを考えていた。


(エルフ、かぁ……また会えるかな?)


ネクは、生まれて初めて出会ったエルフに対して、思いを馳せていた。

そしてこの出会いが、今後のネクの冒険者としての生活を大きく変えるものになるとは、今は想像すらすることができなかった。

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