第6話

『と、とりあえず運びましょう!』

『そうだな』


やや上ずったネクの声に、ロッグが同意する。

ふっと緊張が緩む。黙っていたベリも頷いた。

ロッグは少女の方へ目を向ける。


『一度コンテナに詰める。

 そして、こちらが用意した車両に運び込む。

 取り分は冒険者ギルドに査定してもらう。それで良いな?』

『……わかったわ』


少女も合意する。

機体には通信内容や機体の行動を記録する装置が付いており、これは取外不可能なブラックボックスだ。

唯一、冒険者ギルドの整備士のみが解析することができる。

それ故、冒険者の間での揉め事……取り分の裁定や、事件が起きたときの調査も、冒険者ギルドが行う。


『お前は、車両はあるか?仲間はどこだ?

 いくつかそちらの車両に運び込んでも良いが』

『いいえ。私と、この機体だけよ』

『……マジかよ』


少女の返答に、ベリが驚いた声を上げる。

ロッグも言葉こそ出さないが、面食らった様子であった。

冒険者というのは複数人で組んで廃墟を探索するのが基本中の基本だ。

単純に一人では対応できる範囲に限りがある。

もし機体が故障しようものなら、そのまま死んでしまいかねない。

それ故に冒険者ギルドも複数人を組ませているのだが……


『……ああ、そうか、お前は……』


ロッグが何か言うよりも先に、少女は部屋の外へと向かった。


『物資の運搬は任せるわ。その分も査定に入るのも知ってる。

 私は別の場所の探索に行くから』

『ああ。わかった』

『……フン』


後に残された3人は、コンピュータを運び始める。

先ほどの『装甲蟻』とは違い、その手つきは慎重かつ丁寧だ。

経年劣化でもう使えないとはいえ、元は精密機器。

手荒に扱っては、価値が下がってしまいかねない。


『……ロッグさん、今の人、知ってるんですか?』

『ああ』

『あー、ネクは新人だし知らねえか。冒険者の間じゃ有名人だよ、つっても生で見たのは俺も初めてだが』


少女が離れた後、ロッグたちにしか聞こえないように通信チャンネルを変更してから、ネクが口を開く。

緊張しているためか、声色は少しかすれていた。

ロッグとベリは頷く。


『白い軽量級機体に選抜銃マークスマンライフル。そんでソロ冒険者って言ったら『白雪姫阿婆擦れ姫』様だよ』

『白雪姫?』

『ああ。ソロで活動している冒険者だ。ランクはシルバー。

 名前はシェフィル・ロンドン……『エルフ』のお嬢さんだ』

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