第2話 ゲームスタート


「えっ、」


俺は机に突っ伏していた顔を上げて驚きの声を漏らした


「ん?どうしたの?」


美鈴は小悪魔的な笑顔でこちらを見ている


「えっと、どうゆうこと?」


「どういうことって、こういうことだよ」


美鈴はそう言うと俺の手を掴み自分の胸に当ててきた


「どう?あの子より結構あると思うんだけど」


美鈴の胸を触っていても心では渚のことを考えてしまう


「ねぇ、今は私だけを見てよ」


美鈴は無理やり俺にキスしてきた

胸を触らせながらキスをしている

傍から見たらそういう現場にしか見えないだろう

だけど、それでも失恋の悲しみは消えない


キスをし終わると美鈴は俺にこう言ってきた


「湊はさ、今失恋してつらいかもしれないけど

私は嬉しいよ」


「っ!」


美鈴の急な言葉に声が出ない


「私はずっと湊が好きだった、ずっと、ずっと、

高校に入ったら告白しようって決めてた、だけど湊は別の女のところに行っちゃった、私も辛かったよ、」


そんなことを言う美鈴に俺はなんと返したら良いか分からずただ「ごめん」と言う一言を返した


「じゃあさ、私と付き合ってよ」


じゃなきゃ許さないと言うような雰囲気で美鈴は俺に告白してきた


「それもごめん、」


俺は今好きという感情がよく分からなくなっている

好きだったから失恋しているんじゃないのか、

好きだったから渚が別の人と付き合って落ち込んでいるんじゃないのか、

でも好きだったらあんな対応しないだろ、

好きだったらちゃんと話を聞いてあげるべきだったんじゃないのか、

相反する2つの感情がぐるぐるしていてよくわからない、俺はどうすれば良いのだろう


「じゃあ、トモカノにしようよ」


美鈴はどうしても諦められないのか、新しいことを提案してくる


「それって、」



トモカノというのは渚が俺に勧めてきた漫画の中に登場していたものだ

友達以上恋人未満

相互的なキープとでも言うのだろうか、

あの漫画ではトモカノを使っていたのだが

渚から漫画を貸してもらい、ハマってしまって

週間連載の方も追っているからわかるのだが、

主人公はトモカノを決めた相手ではなく別の相手と付き合いそうになっている

なんで美鈴はこれを提案してきたのだろうか


「知ってるでしょ?トモカノ、」


「うん」


困惑しながらも返事をした


「あっ、ちょっと、待って」


多分この状態じゃ話が出来ないと思ったのだろう

美鈴は俺の涙と鼻水でグシャグシャになった顔をハンカチで拭いてくれた


「私とゲームをしようよ」


やっと心の整理がついてきて美鈴の話が頭に入ってくる


「ゲームって?」


「なにか期限を決めてそこまでに湊があの人を振り向かせることができなかったら私の勝ち、振り向かせることができたら湊の勝ち、どう?」


ルール説明が腑に落ちなかった

相手は彼氏がいるのだから振り向かないだろう

そう思ってしまった


「これって無理じゃない?だって相手は彼氏いるじゃん」


美鈴に質問をする


「無理じゃないよ、だってよく考えてみてよ、相手はあのすぐ乗り換える先輩だよ、しかも、」


美鈴はそう言ってカバンからとあるものを取り出してきた


「これって、」


美鈴に見せられたのはあの日渚に見せられた紙とほとんど同じものだった

違うのは宛先と日付だけ


「今日下駄箱の中に入ってたの、どういうことかわかる?」


「先輩は本気じゃないってこと?」


「そう、あともう一つ、あ、でもこれは駄目だ」


「駄目って?」


「もう一つは内緒、ゲームがつまらなくなっちゃうからね、けど湊が不利になる内容じゃない」


良かったと胸をなでおろした一方、俺に不利じゃないということは美鈴からは不利になるかもしれない内容ということだろうか、


「この内容だとしたら美鈴が不利じゃない?」


「んー、じゃあもう一つルール追加しよう」


「いいよ」


「途中で諦めた場合私の勝ちってことにしよう」


「つまり?」


どういうことかよく掴めなかったので質問してみる


「途中で湊が私のことを好きになっちゃってもいいよっていうこと」


「そうだとしても美鈴のほうが不利じゃない?

いいの?」


「いいよ、だって私は湊のことが好きだから」


少しドキッとしてしまった


「あっ、もうスタートしてるよ、」


「え、もう?」


「うん、だって本物の恋にスタートラインなんてないでしょ?いつの間にか落ちてるものなんだから」


確かにと納得してしまった


「それで期限って言うのは?」


「そうだね〜、わかりやすく文化祭までにしよっか」


今が夏休み前の7月頭、文化祭が11月の中頃なのでまるまる5ヶ月ほどあることになる


「分かった、でも絶対負けないから」


「いいよ、私がどれだけ湊のことが好きか教えて上げるから、あといい忘れてたけど、私達はトモカノだからお互いの願いは極力叶えようね」


最後に怖い一言が追加されていた気がする


「それじゃあゲームを根本から破壊するようなやつは…」


恐る恐る聞いてみる、別にしたいとかではなくありかなしかを明記させたいだけだ


「もちろん、無しだよ、そんなことをしないとは思ってるけどね、私の未来の旦那様は」


俺は渚が好きなはずなのに美鈴のこういう一言にドキッとしてしまう、本当、好きって何なのだろう



そんな話を終えて校舎から出た


「それじゃあ早速お願い使っていい?」


多分一緒に帰ろうとかだろう、全然余裕


「今日は私の家に泊まって!」


語尾にハートがついていそうな口調で美鈴がお願いをしてくる


「え、」


「トモカノのお願いは聞かなきゃいけないんだよ、さ~、行こうか」


「わかったよ、」


美鈴とは幼馴染なので家は知っているし家族とも仲が良い、だから何もないだろう


「ちなみに今日家族いないから」


「え、本当です?」


「うん、だからいっぱいイチャイチャできるね」


また語尾にハートがついてそうな口調で話す

これが俗に言うお持ち帰りというやつなのだろうか





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