両思いだと思っていた女友達をチャラ男に取られたら幼馴染が「私じゃだめかな?」と言ってきて

枝野豆夫

第1話 絶望


「なぁ湊の隣の女子って変わったよな」


「あ〜、そうか?まぁ見た目は変わったと思うけど」


昼休み

俺と、親友の南蓮は机の位置が前後なのでいつも一緒にご飯を食べていた


「あー、それ新作のやつ?」


「そそ、一つ食うか?」


「食う!」


「ほらよ、」


俺は蓮に最近発売されたばっかりのチョコレート菓子をもらって食べていた


「そういや、お前って渚のこと好きなのか?」


単刀直入に聞いてくる蓮

俺は文字通り飲んでいたお茶を吹き出しそうになった


「ん、んん、ソ、ンナ、コトハ、ナイ、ヨ」


「どこからツッコんだらいいのか、というか幼馴染のあいつは?結構可愛いと思うぞ?」


「別に俺、顔で選んでないし、あいつは友達だから」


「まぁ幼馴染でも無ければお前が近づけるような人ではないしな」


「蓮って偶に鬼でも憑依してる?」



渚というのは俺の隣の席の鈴城渚

俺と渚との出会いは数ヶ月前に遡る



「俺、天王寺湊って言います、よろしく」


入学したてで友達を作ろうと必死だった俺はオリエンテーションが終わってすぐ隣の席の女子に話しかけた


「よ、よろしく、私は鈴城渚」


メガネをかけていて重そうな髪の毛をしている渚は下を向きながらそう答えた

第一印象は暗いだったが、何故か放っておくことができなかった

そこからはなにかあるたびに話しかけた


「鈴城さん、お昼一緒に食べない?」


「べ、別にいいけど」


「やった、」


鈴城はいわゆるキャラ弁というやつだった


「あ、そのキャラ知ってる、なんか小柄で可愛いやつでしょ?」


高校から大学生ぐらいまでの女子の中で流行っているショートアニメ「なんか小柄で可愛いやつ」通称

「柄かわ」のキャラだった


「知ってるの?」 


鈴城さんは仲間がいたことが嬉しかったのか少し顔を上げた


「うん、一応アニメは全話見てるよ」


幼馴染に進められていつの間にか全話見ていた

全60話以上あるのだが1話3分という某ヒーローでも見れるほど短いことが売りの作品だったので全話見ることは別に苦ではなかった


「そう、なんだ、天王寺くんはどの子が好き?」


少し遠慮したような口調で鈴城が聞いてくる


「俺はラッコかな?あの、1話まるまる貝を割ろうとする話で好きになっちゃった」


「本当!わ、私もラッコが一番好き」


その時不意に見せた笑顔が冗談じゃなく輝いて見えた


「そうなの?すごい偶然」


全15キャラほどいてその中でもラッコはあまり人気のないキャラだった

たまたま出した話題で好きなキャラが被るのは奇跡なんじゃないかと疑った


そこから数ヶ月後、現在から1ヶ月ほど前


「おはよう湊くん、あの、どう?かな?」


朝、蓮と話していた俺は後ろから声をかけられ振り向いた


「おはよう渚さん、、っえ、髪型変えたんだ!メガネも、いいじゃん、可愛いと思う」


髪型をショートカットに、メガネをコンタクトにしていた、

突然の変化に少し驚いたが前の暗い印象からはとても遠くなったと思う


そこからは特に何もなく昼休みになった


「最近面白い漫画ある?」


昼食を食べ終わった頃に渚に話しかけた

あれから色々話をして意外と趣味が合うとわかったので今では好きな漫画の話やお互いが勧めたい物の話をするようになった


「こんなのはどう?」


きれいな指でスマホを触り画面をこちらに見せてくる

画面には「今日から始める恋愛指南書」

と書いてあった


「ラブコメ?」


「そう!最近始まったばっかりなんだけど、なんか他のラブコメと違うっていうか、すごい恋愛したくなるよ!」


「へ、へ〜、」


「1巻貸そうか!」


「じゃあお言葉に甘えて」


返事はしたが俺の意識は別の方に向かっていた

「恋愛したくなるよ!」か、

話すようになり、仲良くなり、俺はどんどん彼女に惹かれていた、最初は友達もいなく、クラスで会話をできる人も俺しかいなかった、けれど今では努力に努力を重ね友達も多くはないができていた

その努力を近くで見ていたからこそ彼女に対する思いは人一倍大きいと思う

俺は渚に初恋をした

恋というものをしたことがなかったので

もっとドラマチックなものだと思っていた、

実際はいつの間にか落ちている落とし穴のようだった


「ねぇ、今日一緒に帰ろう!フラペチーノ出たからさ」


「うん、分かった」


最近では放課後どこかに寄ってから帰ることも珍しくなかった

甘いものは好きだし、なにせ好きな子と放課後遊びに行けるのだ、断る理由などなかった


そんな普通と言っても、特別なような日常が続き今に至る



「なぁ、知ってるか、あの先輩渚のこと狙ってるらしいぞ」


蓮が言うあの先輩とはこの学校で少し噂になっているチャラい先輩、高久達也先輩のことだった

もちろん、イケメンだ


「え、」


蓮にもらったチョコレートが手から落ちそうになった


「んー、でも見た感じお前といい感じだし大丈夫じゃね?」


「そ、そうかな、良かった」


客観的な意見での「いい感じ」という発言に胸をなでおろした


「ねぇ~なんの話?」


後ろから幼馴染の白雪美鈴がひょっと顔を出した


「なんでも、ない、」


「男子同士で内緒の話か〜ふーん、エッチな話だね!」


「なわけないでしょ」


そこから数日が経った


「あのさ、湊くん、少し話があって、、いいかな?」


いつもと違いよそよそしく渚が話しかけてくる


「うん、いいけど」


その態度になぜだか悪い予感がしてしまう


俺たちは人の気配のない場所まで移動した


「これ、見てほしいんだけど」


渚から一枚の紙を見せられる

そこには明日の放課後2-Aまで来てください

達也より

と書いてあった

俺はその事実に動揺してしまった

そんなわけない、そんなわけない、



「どうすればいいと思う?」


多分渚も告白だと察しているのか、そんなことを聞いてくる


「好きにしたら」


不安となんでそんなこと相談してくるのか

という怒りにも近いような感情が混ざりぶっきらぼうな言い方をしてしまう

渚なら断ってくれる、そういう信頼が胸の何処かにあった


「そっか、そうだよね、人に相談するようなことじゃないよね」


渚はごめんねと言い残してその場を去った





そこから数日して二人は付き合ったらしい

クラスでは美男美女カップルと騒ぎになっていた

俺は素直に喜ぶことができなかった

あの日あんな言い方をしなければ、

もっと相手を思いやっていれば、

きっと断ってくれる、そう思っていた

けれどあのときあんな答えをした俺にそんなことを言う資格はないのかもしれない

失恋ってこんなにつらいんだな

今考えてももうあとの祭りだった



みんなが帰ったあと俺は1人教室で泣いていた

時間的に周りに人はいないと知っていたので遠慮もせずただただ泣いていた


「な、んで、断ってくれると思ってた、のに」


コツ、コツ、コツ、


自分の泣き声によって教室に近づいてくる足音に気づかなかった


「だーれだ、」


涙でグシャグシャになった目を誰かが隠してくる


「美鈴か、」


いつものように笑って冗談を言う気も出ない


「ごめん、帰って」


見られたことが恥ずかしかったのか、誰の相手をする気も出なかったのか、はたまたその両方なのか

泣いたことによっておかしくなった声でそう答えた


「やだ、帰らないよ」


俺とは対象的な明るい声で美鈴はそう返してきた


「なんで、だよ」


机に突っ伏して声がこもる

最後の力を振り絞るように俺は答えた

すると美鈴が話を遮るように、言った


「あのさ、私じゃだめかな?」




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