第21話 カンナ

「全部説明するとキリがないので質問形式でいきます。さぁ質問どうぞ」 


 私が渋々説明を始める横で店長は興味無さそうに少女漫画を読んでいる。……こいつ……。


「この店の仕組みはどうなってるの?」 


「それは私も分からない。店長だけだよ。知ってるのは。ねぇ? 店長」


 店長は適当に頷く。……こいつ……。


「フィクションでしかありえないと思うんだけど、これノンフィクションだよね?」


「そうだよノンフィクションだよ。……まぁ、私もまだ信じてないけど」 


「いつからバイトしてるの?」


「正式に店員になったのは昨日。一昨日から仮店員としていたんだけどね」


「めっちゃ最近じゃん! ちなみに、こんな不思議な店のバイト代っていくらなの?」


 やばい、バイト代をどう言おう……。忘れ物を届けるサービスをいつでもどこでも受けられる権利……? 金額は


「ゼロ……円?」


こう言った途端、霧島君の表情が曇る。 


「ここめっちゃ怪しい店だよね……? 宮城さん大丈夫?」


「怪しい店とは失礼な!」  


 店長が少女漫画片手に反論してくる。って言う店長が接客中に漫画を読んでるんだぞ。説得力皆無です。


「さっき店長さんが『どうせ全部忘れる』って言ってたけど、あれどういうこと? 忘れるわけなくない?」


「店の外に出ると、このお店のこと忘れちゃうらしいよ」


「えー!! それ言っちゃうんですか!?」


 店長が勢いよく顔を上げた。実はちょっと仕返しのつもりだった。ほら、私に任せるとこうなるんだよ。


 霧島君は唖然としている。


「良かった〜、外に出なくて。どういう原理か全然わかんないけどさ。さすがにないと思うけど、異世界人っていうわけではないよね?」 


 どう答えよう。同じ世界に存在してれば異世界人じゃないよね……? 例えそれが生きてるか死んでるかでも。


「それはないよ〜。まぁとりあえず魔法って思っておこうよ。」 


「宮城さんはなんでここで働くことになったの?」


 阿部さんっていう一年前に亡くなったおばあさんが受けたプロポーズの内容を本人に教えるためだよ〜、なんて言えない!! 


 店長に助け舟を求める。店長は少女漫画で顔を隠す。表紙の目の大きい女の子だけがウィンクしながらこっちを見ている。……こいつ……!


「まぁ色々あって……」 



 カランッと軽快な音が左側の扉から聞こえてきた。店長は少女漫画をすごい勢いでカウンターの下に投げ、いつもの営業スマイルを作る。


「いらっしゃいませ、お客様。あなたは何をお忘れですか?」


 私もそれに習う。霧島君は何故か勢いよく立ち上がった。君もお客様でしょ。


 扉から入ってきたのはおじいさんだった。髭が立派で、リンカーンを彷彿とさせる見た目をしている。


「やぁ、こんにちは。忘れ事屋さんも始めたって言うから、来てみました」


 店長はカウンターからでておじいさんを椅子に座らせた。霧島君と私はおじいさんの横に座っている。


「壇と申します。依頼をしたいことがありましてね。作った歌詞を、忘れてしまったのです。どうしても思い出せなくてね。そして困ったことに、作詞したという事実しか覚えておらず……。題も思い出せないのです。作詞家人生最高傑作だったのですが……。作ったのことは確かです」


 壇さんはぽつりぽつりと語り出す。店長は真剣に頷いている。さっきと全然違う。


 いつもこうであってくれたらいいのに!


 隣の霧島君は不思議そうな顔をしている。たぶん最初の私みたく、自分で探しに行けばいいのに、とか思ってるんだろうな。


「かしこまりました。承ります。では、解決した際にご連絡差し上げるので、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」


 壇さんがスラスラと書いている間に、店長はこちらを向いて何か閃いたような顔をしている。というか自信満々だけど働くの私じゃない?


「はい、ご記入ありがとうございました。では少々お時間いただきますが、お待ちください」


「よろしくお願いします」


 壇さんは深々と礼をして去っていった。


 店長の営業スマイルが一気にとろける。


「さて! 承っちゃいましたよ〜! よろしくお願いします桜さん。キビキビ働いてください!」


 やっぱりこうなった。霧島君は不思議そうにこちらを眺めている。


「あの、宮城さんが働く内容ってなんなんですか?」


 私が聞きたかったことを代弁してくれた。助かる。店長はまたも分厚いファイルを取り出してペラペラと捲りながら言った。


「えーとですね。今の壇さんの作詞した曲を探してきてください」


「待ってください! 題名もメロディも分からないのにですか!?」


 この世に曲っていくつあると思ってるんだこの人。


「安心してください。あの壇さんが住んでいらっしゃったのはたぶん広くてもこの市です。だからこの市出身の作詞家を調べればいいんですよ」


「それでもかなりの時間がかかると思うんですけど……」


 私が不満を言うと、店長はニヤリと笑って霧島君を見つめた。


「僕ね、この世に数多ある戦術の中で、人海戦術が一番強いと思うんですよ。言いたいことは分かりますね?」


 え、まさか


「神凪さんにも働いてもらおうじゃありませんか!」


「家族以外に下の名前久々に呼ばれた〜!」


「そこじゃないでしょ!! 待ってください! 霧島君もここで働くんですか!?」


「え!? 俺も働くの!?」


「今!?」


 店長はいそいそと茶色のエプロンを取り出す。


「働くと、この店の真相を探れますよ〜。それに神凪さん、ちょっと耳かしてください」 


 霧島君は素直に従い、2人はコソコソ話をしている。そして霧島はキリッと


「働きます」


 二つ返事で飛び乗った。嘘でしょ。


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