第10話
「これが納豆です」
「・・・・・・・・・腐ってない?」
「発酵な」
「ほんとに食べ物?」
「ほんとだって。身体にもいいんだぞ」
そう言ってご飯と一緒に食べて見せる。
「ほらな。まあ生卵同様、無理に食えとは言わないよ。日本人でも苦手な人いるから、これは」
「ちょっとだけがんばってみる」
「納豆と卵混ぜて、昨日の卵かけご飯みたいにすると食べやすいと思うぞ」
「やってみる・・・ねえ、これ食べられたらご褒美欲しいかも・・・」
「ならキスでもしてあげようか?(笑)」
「納豆くさいキスいらないから!」
「ハハハ、そうだな、行きたいとことかあるか?」
「行きたいとこじゃないんだけど、バイク?あれに乗ってみたい」
「ああ、いいぞ」
「じゃあ・・・・おいしい!匂いがちょっとダメだけど、味はいいね!」
「だろ?ファニアのこっちのものは絶対おいしいの記録更新だな(笑)」
「なんかわたし食いしん坊みたいだからやめてよ、それ」
「ごめん(笑) じゃあ、アレ乗るのにヘルメットってのが必要だからさ、メシ食ったら買いに行こう」
車でバイク用品店へ。ヘルメットってちゃんとサイズ合わせないと危ないからファニアに試着してもらう。
「耳、痛くないか?」
「うん、大丈夫そう」
耳の形が違うから、メットの内側少し加工しなきゃかもと思ったけどいけそうだ。
他に上着とグローブ、ブーツ、インカムも買っておく。
インカムってのは乗せてる相手や、一緒に走ってるライダーと話す道具。
「バイクに乗るときはショーパンはダメだぞ。転んだ時に怪我するからな。まあファニアなら魔法で治しちまうんだろうけれど」
「治るけど痛いのはイヤだよ。わたし自分の持ってないから貸してね」
そういやミニスカとショーパンしか買わなかったもんな。
最初に貸したジーンズを貸すことにする。
ホントはデニムって丈夫なようですぐに穴が開くから、バイク向きじゃないんだけどね。ファニアを乗せて飛ばす気は無いけど慎重にいこう。
もしこの先もファニアがバイクに乗りたがったら、もっといい装備を買ってあげることにする。
「じゃあ昼飯食べたら出発な。何作るかな?時間かからない奴がいいな」
「わたしカップ麺がいい!昨日と別なの」
「いっぱい買ったからな、そうすっか」
「わたしこれにするね」
「じゃあ俺はこれ」
味噌ラーメンと焼きそば。
「カップ麺もうまいけど、あまり栄養無いから、こればっかり食べてちゃダメだぞ」
「そうなんだね。でもあっちにいた時にあったら食べてたかも。研究ばかりしてたからなあ、わたし」,
「全然そんな感じじゃないけどな」
そんなファニアは想像できなかった。
「フフッ、あなたといると楽しくって。あっちにいるときとは別人だなって、自分でも思うの」
「そうなんだ」
「ユウジはわたしと一緒にいて楽しいかな?」
「当然!楽しいぞ?」
「よかった。嬉しい!」
いつもと雰囲気違うな。からかってる感じが無い。
何かあった?
何かあったとして、ずっと一緒にいる俺がわからないことってなんだ?
「じゃあ足はここにのせて、俺の後ろに座る。あとは俺にしがみついてりゃいい」
片手で腰に捕まって、片手はシートの下ってのが本当なんだが、俺としてはしがみついてもらった方が楽だ。下心があってこうしてるわけじゃない。
「行き先は希望あるか?」
「海がいいな!行ける?」
「さっきはわかんなかっただろうけど、ヘルメットとか買った店、海の近くなんだ」
「じゃあすぐだね!」
「ああ。じゃあ行くぞ」
俺のバイクは古い400ccシングル。これ600ccもあるけど、俺は大型持ってないから乗れない。まあ俺は400で十分だけどな。
「晴れてて良かったな!」
「雨でも乗るの?」
「乗るぞ?ツーリング、旅行に行ったらそりゃ雨の日もあるさ」
「濡れるよね?」
「そりゃあね。でもバイクは自然をそのまま感じられるのがいいんだ」
「それ、ちょっとわかるかも。車は車で楽でいいけどね」
「オッサンになってからは車に乗る方が多いけどな(笑)」
「フフフッ、それもなんとなくわかるよ」
さっきの店の前を通り過ぎ、港の公園へ。
自販機で飲み物買って、展望台に登る。たまには俺の方から手をつないでみた。
「初めてだね!ユウジからつないでくれるの」
「どっちからでも一緒だしな」
「そうだけど、でも嬉しい!」
ああ、やっと自覚した。
俺、ファニアのこと好きになってるわ。
「すごーい!おっきい港だね!」
「大きいとこはもっとデカいぞ」
「もっと?」
「ああ。ここより大きな街に行けば、港だって大きいさ」
「ここ、すごく大きな街って思ってたのに。凄いなー日本って」
「でも俺はここぐらいがいいな。適度に都会で適度に田舎ってとこがいい。自分の生まれた街だしね」
「わたしもここが好き。ユウジがいるから(笑)」
「またキミはそーゆーことをぉ・・・照れくさいって」
「ホントよ?」
「・・・・なあファニア、ずっと俺の家にいてくれないかな?出会って三日目の奴にこんなこと言われたらキモイかもしれないけどさ、俺、もうファニアがいないと生きて行ける気がしないんだ」
「ユウジ?」
「ファニア、君のことが好きだ。結婚は出来るかわからないけれど、この先ずっと、俺と一緒にいてほしい」
「・・・わたしね、帰る方法が見つかったら帰ろうって思ってたの。ユウジは優しくしてくれるけど、ほんとは迷惑なんじゃないかなあって思って。お金はかかるし、わたしのこと公にできないでしょ?だから帰らなきゃって。でも帰る前に思い出いっぱい作りたくて、今日もそのつもりだったんだよ。でも・・・・・いてもいいの?」
「一緒にいてほしい。この先ずっと」
「えへへ、うれしい・・・・すごく・・・」
「泣くほどのことかよ」
「だって・・・・ずっと・・・・大好きな人のそばにいられるんだもん・・・・こんなうれしいことってないじゃん・・・・」
「まだまだお互い知らないことばかりだけどよろしくな」
「それはこれから・・・・知っていけばいいんじゃないですかねー・・・4回目だっけ?」
「そうだな(笑) これから知ればいいだけだ」
指でファニアの涙を拭ってやる。
「はあ・・・・ここまでとは思わなかったなぁ」
「何が?」
「同じ魂の話」
「・・・・・それ、もしかして俺?」
「そうよ。わたしだって半信半疑だったんだよ?なのに会ってすぐ『あ、好きかも?』って思っちゃうし、その後も一緒にいたらどんどん好きになっちゃうし。だからってユウジに話して好きになってもらうのは違うじゃない?だから話すのも途中でやめたの」
「ファニアって俺に会うために来たの?」
「そうだね。逃げ出したのも異世界を見たかったのもほんとだけど、一番はユウジに会いたかったから。同じ魂の人見つけたら行くしかない!って思っちゃって、全部放り出して来ちゃった!」
「後先考えないというかなんと言うか・・・」
「いいでしょ?そのおかげでこんなにかわいい彼女が出来たんだから」
「自分で言うかね(笑)」
「見た目は自信あるっていったじゃん(笑)」
「そうだったな・・・・ファニア?」
「何?」
「ファニアって美人でかわいいよな」
「ファッ!」
「好きな相手に言われると照れるんだな?」
「うー、そうでしゅ・・・」
「慣れてもらわないと困るなぁ、これから毎日言うから」
「なんで?!」
「イチャイチャしてたら言っちゃうだろ?かわいいって」
「・・・・・・・・がんばる」
「ファニアってやっぱかわいいな」
「!!不意打ちはずるいー!」
「ごめん、今のはほんとに思ったからで・・・・・」
ファニアが抱きついてくる。
「ずっと・・・ずっと一緒にいてください」
俺もファニアを抱きしめる。
「はい。俺からもお願いします」
ちょっと体を離して見つめあう。
「あー!もうだめぇ!」
え?
ファニアがキスしてきた。
「ユウジぃ・・・ん・・・大好き・・・」
頭をガッシリ掴まれて顔じゅうに何度もキスされる俺。
「ちょ!ファニア?おちつけいっ!!」
ファニアを引き離す。
「好きがあふれて止まんないのぉ・・・」
「とりあえず座ろ?」
並んでベンチに座る。
同じくらいの背なのに座高が全然違う。
わかってたけど!
ファニアの腰のあたりに手をまわすと、こちらに身体を預けてくる。
「少しは落ち着いた?」
「うん。なんかごめん、自分でも抑えられなくって。誰かを好きになるってこんなになっちゃうんだね?わたし、好きになったのはユウジが初めてだから」
「別にいいんだけど、外では我慢しような?たまたま人がいなかったからいいけど」
「わかった。でもこれくらいならいいでしょ?」
「まあ・・・これくらいでもちょっと照れるけど」
「ねえ、もう一度キスしよ?」
周囲を確認する俺。よし!だれもいない。
今度は俺の方から・・・・
2分くらいしてたかな?
ファニアが吸い付いて離れなかったんだけどね。
高校生くらいの男女が登って来て、俺達を見てまわれ右してたんだが、恥ずかしいから忘れることにする。
「・・・そろそろ帰ろっか?」
「そうだね。絶対忘れない日になったなぁ」
「そうだな。記念に写真撮っておこうぜ?」
「そうだね!」
スマホのカメラを起動。
「もっとくっついて・・・撮るぞ?3・2・1・・・」
パシャッ!
俺は撮る瞬間にファニアの頬にキスするつもりだったんだが、ファニアも同じことしようとしてたようで・・・
「あ・・・・・まあいいか・・・・」
「・・・・・同じこと考えてた?」
「そうだな。まあそれも相性がいいからってことにしておこう」
「これ、あとでこっちにも送っておいてね」
「恥ずかしいから人に見せんなよ?」
スマホの画面は二人がキスしてるところがバッチリ写っていた。
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