そのパターンはいりませんわ!
カットボール。
今や日本のプロ野球でも2人に1人は持ち球に加えている球種である。
そして今対戦しているピッチャーも、カットボールを得意球にしていて、そのボールの威力と精度で勝ち星を重ねてきていますから。
勝負球にも出来るそのボールをまんまと投げ込んでくれた。後はそれをどの程度捉えることが出来るかという勝負だった。
強く踏み込んだつま先から体重が乗る。振りだしたバットの軌道、その芯にボールが当たる。カットボールで曲がった分だけ、より真芯に近付いた気がするくらい。
バットを振り抜くと、打球はセンター方向にグイーンと伸びていった。
1打席目は、ホームランになったとはいえ、距離的に100メートルのところでギリギリでしたから。120メートルあるセンターではどうかなと思いましたけども。
ビクトリーズスタジアムといえば、ホームからセンター、ライト方向に吹いているホームラン風。
通称女神様の息吹(誰が呼んでますの?)があるわけであります。
「センターに上がった!!新井の打球!!これも大きな打球になっている!!センターが下がる!センターの百瀬が下がってジャンプー!!………捕れませんっ!!」
去年のゴールデングラブ賞を獲得したセンターがフェンス際ジャンプも及ばずフェンスダイレクト。そしてボールが無人のところへ大きく跳ね返る。
こ、これはっ!?
そんな予感があった。
「打球がフェンスに当たって、センターの定位置方向を転々としています!ライトの助川、レフトの友寺がカバーに来る!!セカンドの平も追う!!
1塁から平柳は返って来そうだ!!3塁を回る!新井も2塁を蹴って………。コーチャーは迷わずランニングホームランへのゴーサインだ!!新井が3塁も回った、回った!!ボールはレフトの友寺から中継へ!ショートの榊原からのバックホームだ!!
これはいいボールが返って来ました!!
タッチ…………アウトーだ!!!新井の、渾身のヘッドスライディングが僅かに及ばす、無念の本塁憤死でしたーっ!!」
これ、何回やってんねん。
ルーキーの年から何回ランニングホームラン未遂しとんねん。
普通、ランニングホームランになる時って、慌てた中継が乱れて、わりと楽勝のタイミングでホームインするもんやねん。
なんで、外野の処理が乱れてるのに、中継だけはきちっとしてきっちりアウトにしてくんねん!
どう考えてもおかしいやろ!
俺をタッチアウトにした浦野君に抱っこされて起こされながら、俺はトボトボと1塁ベンチに戻る。
しかし、スタンドのお客様はお楽しみいただけたようで。まあ、何よりである。
どうやらホームインした平柳君と、ベンチの仲間達が笑いながら拍手。よくやりましたよと、俺を労いながらドリンクを飲ませられた。
いやー、疲れましたわいや。
俺はベンチに腰を下ろし、真っピンクなタオルで顔を拭いながらしばらくぼーっとしていた。
「新井さん、すごいっすよ!!」
「おう!」
アンダーシャツを着替えにいった平柳君が戻ってきて、改めてグータッチ。
「あれじゃないっすか?MVPありますよ!ホームランとスリーベースですから!」
「たしかにっ!……あー、今のホームでセーフだったらもう当確だったのに」
「神戸アイアンズラインですよ。最後に抜群の中継したのは。トモと榊原だったんで」
「あいつらめ!特に友っち!俺たちは同じ苦労人同士親友じゃなかったのかよ!」
「ギャハハ!まあまあ、ホームでアウトになるのも、それはそれで印象に残りますよ」
試合は進み5回裏のオール東日本の攻撃。
レフトのポールにぶち当たるホームランとセンターオーバーのスリーベースですから。そろそろ1本自分らしいバッティングというものをやっていきたいですわね。
そう思って、3番手のピッチャーからスウィングしていった。しかし、マックス158キロというすごいボールを投げるやつであり、なんとかファウルにするのがやっと。
ストレートをファウルにし、ボールになる変化球を我慢して、なんとか平行カウントまで持ってきたところで、ここまで抜群のコントロールだったスライダーが高めに浮いた。
体が反応した。
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