とりあえず、今のところは無事ですわ!

「プロ野球ファンの皆様、ようこそ東西オールスター戦へ。今年は栃木県宇都宮。北関東ビクトリーズの本拠地、ビクトリーズスタジアムでの開催となりました。


解説席には、大原さん。そして2020東京オリンピックで、日本代表監督を務められました稲木さんにお越し頂いております。


おふたりとも、本日はよろしくお願いします!実況は私、乃木が担当させていただきます。まずは大原さん、ビクトリーズスタジアムでは、初めてのオールスター開催となりますね」



「やっとこの日が来たかという思いですね。4年前にここでやるという予定があったんですけど、残念ながら実現しなくて、今日は本当にそういう意味でも楽しみですよ」



「ビクトリーズスタジアムでやるなら、あの男がいなければいけないだろうと。新井はあの時、病床に着いていて、昏睡状態に陥っている最中でありました。


その新井が去年の夏に目覚めまして、今年はなんと20年ぶりに100万票という大台を突破し、最多得票を獲得。その新井が宇都宮の地で、オールスターゲームに初めて挑むということになります。稲木さんは、今年のオールスターをどう見ていらっしゃいますか?」



「新井のね、事故が起きてしまったのは、オールスターゲーム前の練習中だったんですよね。ですから、新井にとってもファンにとっても様々な思いがありますし、もうその6年という時間は返ってきませんけど。本当によくここまで頑張って来たなって思いますね」





「守備に就きます、オール東日本の選手をご紹介します!レフト、新井時人!!」



「「ウワアアアァァァーッ!!」」



いつにも増してものすごい歓声。



「いよっ、大将!!」



「待ってました!!」



という声が響く中、これでもかとサービスボールを詰め込んだバスケットを腕に下げて、俺はご機嫌にスキップしながらグラウンドに姿を現した。



試合前に、ロッカールームとベンチ裏でマジックを走らせて書いた俺のサイン入りの生ボール。



それにいちいち1個ずつキスをしながらスタンドに投げ入れていく。



「新井さーん!こっちー!」



「こっちもー!!」



「はいはーい!!」



あんだけ用意した生ボールもあっという間に空っぽ。昨日お買い物に行って、自然素材の雑貨屋さんで680円で購入したバスケットも最後は、近くのスタンドにいた幼女にプレゼントした。



そして、帽子にかけていたサングラスを装着し、ようやくセンターの藤並君とにこやかにキャッチボールを行う。




「さあ、試合が始まります。オール東日本の先発は蜂巣です。埼玉ブルーライトレオンズの5年目ドラ1右腕。前半戦は13勝をマークして防御率も2、21。両方ともリーグトップの数字をマークしています。バッターボックスには、神戸アイアンズの友寺が入りました。初球です!」





カンッ!!



初球がストレートである程度のコースなら、友寺君はいきなりミートしてくるのではないかという予測はしていた。



そして今シーズンは流し方向のヒットゾーンはレフトの真ん前から左中間方向に厚くなっていることも把握済み。



幾分かそっち寄りにポジションを取っていて、予測も立っていたから反応も速かった。



打球が思ったよりも低く、ノーバウンドでいけるか微妙だったが、プレーボールの打球だし、景気よくいった方がいいだろうと、足から滑り込んで捕球を試みた。



ミート力よりも何よりも、おケツのプリン具合でプロ野球の世界で戦っていますからね。そのおケツを人工芝の上で滑らせて、地面スレスレでライナーを捕球する。



その勢いでスターンと立ち上がりながら、白球を掴んだピンクグラブを掲げると、スタンドからは大拍手。平柳君にボールを返した後は、芝に擦ったおケツをちょいちょいと手で払ってからレフトのポジションへと戻っていくのである。






「オッケー!!新井さん、ナイスキャッチ!」



「新井さん、ファインプレー!!」



いつもとは違う、ブラックを基調としたオールスター用ユニフォーム。もちろん、ベンチで待つチームメイト達も顔ぶれが違う。



しかし、初回プレーボールで飛んできたボールをギリギリ好捕したことに関する面白がり方はだいたい同じである。





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