何の肉を約束したのかは忘れた。
「打ったぁー!!大きな当たりだぁー!!左中間に打球は伸びているー!!入りましたぁー!藤並に、2打席連続ホームランが飛び出しました!先発小野里、痛恨の1球となってしまいました!」
少し高めに入ったストレートをガツン。左中間の真ん中に上がった打球はもう追う必要などなく、柴ちゃんと一緒になって見上げた打球が左中間スタンドの中段深くまで届いてしまった。
打たれた小野里君と緑川君はガックリ。
2打席目の2ランホームランに続いての1発は、勝ち越しの3ランホームラン。こちらもマテルのホームランで追い付いてよし、これからだ!という雰囲気だったからかなり痛い。
さらに………。
カァンッ!!
「これも大きいぞ、打球がスタンドに向かっていくー!………入りましたー!!フライヤーズ、安斉にも1発が飛び出しました!6号のソロホームランです!!」
藤並君に続いて、売り出し中の若手にも打たれてしまった。なんとかこの回までは………という雰囲気だったが、さらにランナーを出してしまい、ピッチングコーチおじさんが現れ、阿久津監督もベンチを出る。
小野里君は、5回途中6失点でノックアウト。
そして同じ右ピッチャーの高久君が出てきたのだが…………。
カキィ!!
「これもいい当たりだ!!レフトの新井が下がる、下がる!…………入りました!!フライヤーズにまたしても1発が飛び出しましたっ!」
3ラン、ソロ、2ラン。合わせて何点になるのか分からなくなるくらい、頭の上を打球が越していった。
セカンドお祭りのファインプレーでようやくチェンジになりベンチに戻る。
腰を下ろして、6点差かあとバックスクリーンを見ながら汗を拭き、ドリンクでとりあえず喉を潤した。
くらいのタイミングだった。
カキィ!!
「桃白の打球、高く上がりました!!ライト、下がる!!ポール際!……入ったか、入った!!入りました!ホームランです!!」
正直、半分くらいの選手は見てなかったかもしれない。守る時間が長くなってしまったから、トイレに行ったり、シャツを着替えにいったり。
しかも初球でしたから。それをパカーンと打ち上げた形になり、風にも乗ってポール際の最前列に打球は飛び込んでいった。
まだまだ点差はありますから、打った桃ちゃんはガッツポーズなどすることなく、足早に、あっという間にダイヤモンドを1周した。
桃さんがホームラン打ちましたよ!
という声がベンチ裏に響き、下がっていたコーチや選手達がモグモグしながら急いで戻ってきた。
そして早急にお出迎えの列を作って、桃ちゃんを出迎えた。
ふー、間に合った、間に合ったとみんな安堵していたのだが………。
ヘルメットを外しながら、桃ちゃんが疑問を投げ掛ける。
「みんなちゃんと今のホームラン見てた?なんだかベンチにいた人が少なかったような」
みんながギクッと、首をすくませる。桃ちゃんも大卒社会人として入団して8年。もうだいぶ年上の方である。
ちゃんと見ていなかった若い連中が静かに顔を背けるように逃げていく。
むしろ、ちゃんと見ていたのは俺くらいのものだったかもしれない。
「桃ちゃん。君の活躍は、俺が見ていればそれで十分だろ?」
「………。ふふっ、やっぱり新井さんにはかなわないっすね!」
俺はそう言って、桃ちゃんの静かなる怒りを静めたのだった。
「もうちょっとしたら、うちの嫁がみのりんと柴妻と一緒にご飯食べたいって言ってるんで。
分娩室入る瞬間のあの約束を忘れないでねと言ってましたんで」
そういえば、ストレッチャーで運ばれる宮森ちゃんにそんな声を掛けましたね。
「おう、任せろ!」
任せろのろ!を言いきった時に、スカァン!と気持ちの良い打球音がまた響いた。
桃ちゃんのは夜空に高く舞い上がる打球だったけど、今度は低くグイーン。しかしそのまま、ライトスタンドに飛び込んでいく打球を今度こそはベンチにいる選手がみんな目撃した。
打った緑川君本人もちょっとびっくりしてしまうようなすごい当たり。弾丸ライナーで持っていったホームランは、第2号の2者連続ということになった。
「よっしゃあっ!!まだまだいけますよ!こっから、こっから!」
「オッケー!ナイバッチ、ミドリ!!」
「よっ!ナイス、ミドリ!」
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