ある意味持っていますわぁ。
1つ低めのストライクを見送り、ふーっと並木君は大きく息を吐いた。
カンッ!
ここまで、キレ味抜群のスライダーで右バッターを手玉に取ってきたピッチャーですから、ここぞという時はやっぱりそのスライダーだった。
真ん中から、アウトコースギリギリへ曲がっていくようなコースだったが、それを狙う並木君は強く踏み込み、前で捌いた。
芯で捉えた打球がショートの左へ。しかし、守備範囲。足を滑らせるようにしながら捕球にいったグラブをボールが叩いた。
ショートの目の前にこぼれるボール。それを拾い上げる。
しかし、手につかない。
またボールがこぼれる。
今度は体勢を崩して2塁から遠い膝を着いてしまった。
何処にも投げられず。記録は内野安打となった。
同点。
5点差を同点に追い付くタイムリーヒット。
そして俺。またなんという場面で回ってきやがる。
「大原さん、ついにビクトリーズが同点に追い付きまして、満塁!新井に打席が回りましたよ。よく繋ぎましたよねえ。ポイントはインコースの速いボールでカウントが取れるかというところですかねえ」
1球は必ずインコースに速いボールが来る。わたくし相手にスライダー、スライダーとなかなかゾーン内に連投するのは難しいでしょうから。守備範囲に飛んだとはいえ、同じ右バッターの並木君にいい当たりをされてしまっているわけですからね。
初球スライダーなら、ボール気味に投げてくるだろうし、まずは速いボールを待つことにした。
そして来る。
ストレートが来る。
しかも甘めに。
カンッ!
芯そばには当たった。
だが、その打球はワンバン、ツーバンでファーストの正面だった。
その打球を……………。
トンネルした。
「あーっと、打球が後ろに抜けているー!1人ホームイン!!2塁から緑川も返ってきましたぁー!ビクトリーズ勝ち越し!新井の打球が、またしてもフライヤーズ守備陣のミスを誘いました!」
ファーストの正面に跳ねた打球。さっきのサードの時とは無理やり言えば逆であり、こちらも中途半端なバウンドになって、ハーフバウンドになりそうなやつを最悪体で押さえようとしたら全然跳ねて来なかったパターン。
ドリブルしてきたフォワードと1対1になったゴールキーパーが、ニアとファーのコースを上手く消しつつも、最後はまさかの股を抜かれてゴールを決められてしまった時のような。
ファーストの選手が跳ねなかったボールに反応してグラブを下ろし、足を閉じたがわずかに間に合わず、打球は俺目線でも無情にもライト前へと抜けていってしまった。
地面を叩いて悔しがるファースト。転がってきた打球に猛チャージをかけ、3塁に送球するライトの選手。並木君が滑り込み、そちらもセーフになった。
試合が決まった。
ビクトリーズ8ー6フライヤーズ
ビクトリーズが7回に集中打!打者1巡の猛攻で逆転成功!投手、山田ブライアンが嬉しいプロ初勝利!
2位フライヤーズと3位ビクトリーズの試合は、中盤までリードを許しながらも、終盤に打線が繋がったビクトリーズが見事な逆転勝利を収めた。
ビクトリーズの先発千林は、直球に力がなく変化球も狙い打たれ、5回6失点と試合を作れず、2番手酒屋も失点を喫し一時は5点差を許す苦しい展開に。
しかし、ビクトリーズ打線は7回に奮起。
先頭の並木が四球を選ぶと、続く新井の打球が3塁安斉のエラーを誘い、祭のタイムリーへと繋がった。
1アウト1、3塁となり、マテルが右中間へしぶとく弾き返し3点差。代わった都倉から赤月もライト前で続き満塁とすると、柴崎の内野ゴロの間に追加点。桃白は外の変化球を見極めて四球で再び満塁とした後に、9番緑川は、当たり損ないの打球が3塁線に転がり内野安打で1点差。
フライヤーズが次に送り込んだ右腕栗から、1番の並木の打球が痛烈な当たりとなり、遊撃を強襲するヒットとなり、ついに同点に追い付いた。
そして打席には奇跡の4割打者。この時の心境を新井は……。
「みんなが必死になって作ったチャンスだったんでね、その一丸となった気持ちがああいう打球になった」
速いボールを打ち返した打球は、1塁の正面へ。しかし、アンツーカーでイレギュラーした打球がライト前へ抜けると、その間に2者が生還。ビクトリーズが打者11人の猛攻で、5点差をひっくり返すビッグイニングとなった。
8回はエンゲラ。9回は岸田がきっちりと締めてゲームセット。エンゲラは今シーズン15ホールド目を挙げ、岸田も通算150セーブまであと10と迫まり、7回を無失点で抑えた山田ブライアンに、嬉しいプロ初勝利が記録された。
勝利したビクトリーズ阿久津監督。
「こういう展開をものにできたのは自信になるし、大きい。打線も派手さはなかったが、全員で繋いで得点出来た。最後まで我慢したピッチャー陣にも感謝ですね」
7年目でプロ初勝利、初めてのお立ち台にも上がった山田。
「本当に嬉しいです!声を枯らして応援してました。ウイニングボールは北海道へ帰省した時に、両親にプレゼントします。新井さんと一緒に活躍出来ましたし、サイコーです!これからも応援よろしくお願いします!」
敗れたフライヤーズ、藤宮監督。
「7回の相手の勢いを止めることが出来なかった。継投がちょっとね。思い通りにならなかった。みんな必死にはやっていたけど、もう1歩でアウトにできるところで繋がれてしまったからね。今日は切り替えます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます