予想外でしたわ!
おもちゃのバットで素振りをしていたかえでちゃんも、ゲームをしていたもみじちゃんも、ベビーベットに寝かされたかずちゃんも、何事かと心配そうな表情。
「実は……………私とマイちゃんの漫画が正式アニメ化されることが決まりました!!」
みのりんがそう話した瞬間、5人と1匹が一斉に立ち上がって大盛り上がり。
全員で家中を駆け回った。
ここぞとばかりに、きゃらめるが俺のおケツをフンガッフンガッと激しく嗅ぎながらずっと着いてきていた。
「ママ、いつから?」
「冬アニメ。1月からです。15分のハーフパートアニメですが……」
「いやいやいや、それでも凄いよ。野球雑誌の小さな連載から始まって、単行本に続いてアニメ化なんて」
「おとう、ハーフアニメってなに?」
「普通のアニメは色々コミコミで30分でしょ?ママのアニメは、それが半分の15分で1話なんだよ」
「えー!?15分しかやらないの~?」
「まあ、元が4コマ漫画だからね。導入や俺が昼寝やゲームしてたり、アイスを食べてるシーンとかあったり、みのりんのお料理タイムもあるから……30秒から1分くらいのネタを10本くらい入るのがちょうど良さそうだね」
「時くん、鋭すぎ。たくさんの大人達が気が遠くなるくらいに打ち合わせして決めたことなのに」
広島カルプス。さすがは西日本リーグの首位を行くチーム。初戦に続いて2戦目も、安定した投手力と破壊力のある打線で試合を優位に進められてしまった。
連城君に続いて、碧山君にも負けが付いてしまった。
ビクトリーズ、3戦目の先発は4年前のドラ1である思田健君。去年は低迷するチームの中で8勝をマークして、よしそろそろここら辺りでと一気の飛躍を誓うサウスポーである。
そんな彼のウイニングショットは………。
「落としたー!!空振り三振!!4番浦野からも三振を奪いました、思田。今日……5つ目の三振です」
ヌルンと落ちるパームボールである。
ストレートは最速で152キロ。それと25キロくらいの球速差があるパームボールが彼の武器。それが決まればいいピッチングになるし、それが悪ければきつい状況になってしまう、まさに命綱。
今日はその命綱がずいぶんどがっしり逞しいようで。初回を10球で終わらせたピッチングを見ただけで、あ!今日はおもっちいけますわと、俺は確信した。
後は打線が3点取れば8割方いける試合だなと、そんな見解である。
しかし、本当にバッティングとは面白いもので、21打数とか連続でヒットが出たかと思いきや、それが途切れた途端にパッタリという状況になってしまっていた。
ヒットが出ていた時はいい当たりを飛ばそうが、そうでなかろうが、まるで遠隔操作されているみたいに野手のいないところやベースに当たったりして俺にとって幸運な結果になっていたのだが………。
「捉えた当たりだ!!あーっ、またしてもセカンドの正面!!4ー6ー3と渡りましてダブルプレー!新井は今日2つめの併殺打となってしまいました!ビクトリーズ、この回も得点ありません!!」
またやってもうた。すまぬ。バッティングとしては悪くないねん。
「新井さん、ドンマイッス」
8回のマウンドに向かう思田くんにおケツを叩かれながら俺はベンチに腰を下ろした。
「ストライク、バッターアウト!!」
「ストライクバッターアウト!!」
ガキッ!!
「オーライ、オーライ!!」
バシッ!
「オッケー!赤さん、ナイスキャッチ!」
「8回も終わったッス」
「おもちゃん、凄いよ!」
僅か5分足らずで、8回も無失点抑えて、飄々としたサウスポーがもう戻ってきた。
「大原さん、思田は8回も見事なピッチング!カルプス打線を寄せ付けません!」
「球数もまだ93球ですか、三振も9つ奪いながらかなり少なくきていますね。9回もそのままいくかもしれませんよねえ」
「その思田をなんとか援護したいビクトリーズ。とにかく1点が欲しい」
「こう点が入らない時というのは、フォアボールかエラーかホームランと良く言われるんですよねえ。広島カルプスの宮本も相当出来がいいですから、ビクトリーズもまだ2安打で、連打で得点というのは難しいですから。先に我慢出来なくなるか、主砲の1発という辺りで試合の流れは一気に変わりますよ」
スコアは0ー0。
8回裏。ビクトリーズの攻撃は3番のお祭りから。
否応なしにファンの期待は高まる。
ビシュッ!
バシッ!
「ボール、フォア!!」
「「よっしゃあっ!!」」
3ボール1ストライクから外の真っ直ぐを見極めて、お祭りちゃんがフォアボールで出塁。
そのお祭りちゃんは今シーズン、7の7で盗塁を決めてやっしゃいますから。走るぜぇ、走るぜぇという姿勢に牽制球。それがワンバウンドになり、ファーストの選手が大きく弾いた。
お祭りは盗塁を試みることなく、2塁へ進み、一気に得点のチャンスになった。
「芳川さん、なんとかしてくれッス」
次の回にいくのか、いかないのか点数が入る、入らないに運命を委ねることになりそうな雰囲気に、肩からタオルを被った思田くんが祈るように見守る。
カアァンッ!!
真ん中低めの、やや外よりのボールだった。
芳川君の100キロある立派な体格が右バッターボックスでぐるんと回る。
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