ちょっと怖えですわ!
3番お祭り、4番芳川、5番マテルと打ち取られてしまい、1点を先制するに留まった。
そして連城君が投げる。最速153キロのストレートに140の高速スライダー。さらにはフォークボール、チェンジアップも冴え渡るナイスピッチング。
俺の2打席目は、1アウト満塁というチャンスでやってきた。
打席に入り、改めてカルプスの4番キャッチャーでキャプテンを務める男に挨拶をする。
「やあ、浦野君。昨日は最後の返信見る前に寝ちゃってすまんね」
「いえいえ、俺も送った直後に寝ちゃったんで。やっぱあれすか、お子さんがいると……」
「そうね。子供と一緒に暮らしていると、自然と規則正しい生活になるよ。赤ちゃんいると余計にね。休める時に休まないと」
「なるほど」
5年間での浦野君の成長は凄まじい。打率3割2分台が2回。20本塁打3回。110打点を挙げて打点王にも輝いた。
6年前は平柳君のマンションを見上げて、すげーっとアホ面を浮かべていたやつが、今ではそれと同じくらい凄い住まいを広島の一等地に持っている。
年俸5億円。広島カルプスの大看板選手だ。
その男は初回の先制打を見て、満塁とはいえ慎重なリード。
ストレート、変化球がボール、ボール。アウトローいっぱいの真っ直ぐに1つファウルボールがあり、2ボール2ストライクとなった。
俺としては、低めの変化球を引っ掛けて内野ゴロには気を付けねばという思い、それを若干上回るような精度の変化球がアウトローにやってきたがそれを見極めた。
フルカウント。
ストライクゾーンを広めに。臭いところはなんとかカット出来るように。それでいてボール球はしっかり見て選ぶ。
勝負の6球目は、インハイに真っ直ぐがきた。バットが出かかるが、このピッチャーのベストボールではない。インハイギリギリから若干内側にシュートするボール。
バットを止めつつ、やや見送りながら、仰け反るようにしてバッターボックスから離れた。
よし、押し出し………。
「ストライク、バッターアウト!!」
はあっ!?
なにぃ………。今のはボールだろぉ………。
そのままだと、球審を睨みつけたり、強めのクレームをつけてしまったりしてしまいそう。
それは生まれてきてくれたかずちゃんに申し訳が立たない。
そう考えた俺は仰け反った勢いのまま人工芝の上で大の字になるように倒れた。
バットは手にしたまま、転がるヘルメット。銃で撃たれたように、俺は目を閉じて地面で寝転び微動だにしなかった。
どよめくスタンド。キャッチャーの浦野君や球審の視線を感じる。
「3番、セカンド、祭!」
アナウンスが流れ、彼の登場曲が鳴り響くと同時に、俺は何事もなかったスクッと立ち上がり、ヘルメットを回収し、ベンチへと無言で去っていった。
「見逃し三振!!インコース高めのボール。実に際どいボールでしたが、新井にとっては厳しい判定となりました」
「本当に際どかったですね。そこに投げ込んだピッチャーも素晴らしいですし、ボールと見てバットを止めた新井も素晴らしいですよ。手が出なかったというわけではなく、ボールをしっかり見た形でしたから、調子が良すぎた故に起こってしまった凡退の用にも捉えられますよねえ」
「なるほど。他のバッターだったりだと、あれは振りにいっているわけですね」
「そうですねえ。満塁で1アウトなわけですから、少々強引になっても前に飛ばせば得点になる確率はあるわけですからねえ。それをもちろん踏まえた上で勇気を持って見送ったんですが、今回はそれが裏目になってしまいましたねえ」
真顔でベンチ戻って、ばぶばぶ!とかずちゃんの物真似をするしかなかったですね。
しかし、祭りちゃんもいい当たりを外野に飛ばしたが、レフトのファインプレーに阻まれて絶好のチャンスを無得点。
逆にビクトリーズは、5回に満塁のピンチから浦野君の大飛球をレフトの露摩野君が懸命のダイブも僅かに届かず逆転の走者一掃。
痛い逆転負けを喫してしまった。
そして帰宅。
かずちゃんにおっぱいをあげ終えたみのりんが………。
「ちょっと大事な話が……」
と、真面目な表情をした。
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