緊張しましたわね、やはり。

やっぱり野球選手の結婚式ですから、途中途中で、今日来ている選手の年俸ランキングとか、今だから話せるプロ野球の○○な話とか、ガチンコ野球対決とかやった方がいいだろうと考えたけど、みのりんに却下されてしまった。



そんな彼女も、メインなお料理はラーメンにしようとか抜かしやがったんで、秒で取り下げさせてやりましたけども、そんなこんなで多少規模が大きめの普通な結婚式になりました。



チーム関係者はもちろん、引退したり、今はビクトリーズじゃない選手にも招待状を送ったりして、みのりんが呼んだお友達のまだな方達の目がやけにギラギラしていましたわね。



学生時代はあまり目立っていなかったラーメン眼鏡が、野球選手と結婚なんてことになりましたわけですから。



まあ、野球選手なんかと結婚してしまったら、相当な覚悟がいるわけですけれども。




せっかくだから、みんなが全員喜ぶかは分からないけど、高級フレンチを用意して、とちおとめんずの2人でネタをやってもらったり、声優のなずなさんにウエディングソングを歌ってもらったり。



みのりんが俺の昏睡していた6年間で双子も生まれてというネタを加えた感謝の手紙なんて呼んだら、みんなボロ泣きになりましたわよ。



2次会は式場の中にある別のホールで立食形式で行った。



ほとんどの招待客がそのまま参加してくれて、この日の為に召喚したシェフ達が次々にご馳走を用意してくれる。



ある者は、A5ランクのステーキに涙し、ある者は最高級のお寿司の前にひれ伏していく。



今日やっと5年ぶりの再会になる人もたくさんいましたし、おもちゃをあげた子供達が勢揃いしてお礼を言いにきてくれたりした。




3次会は予約していたおしゃれなお店で、野球選手の集まりと、みのりんのお友達集まりに別れてどんちゃん騒ぎ。



夜が更けていく度に、付き合ってくれた仲間と少しずつお別れになっていき、最後のお店までやって来たのは、俺とみのりん、平柳君に、アメリカ帰りの前村君と、ギャル美とポニテちゃん。という組み合わせ。



実はもう結婚していたギャル美の事実に驚かされながら、平柳君も前村君も既婚者ですから、冗談交じりのアドバイスなどで散々イジられたのであった。




最後にやってきた居酒屋さんも午前5時で閉店となってしまったので、外に出たのだが、まだ真っ暗。



ギャル美とポニテちゃんは迎えにきたギャル美旦那のお車で帰っていき、平柳君と前村君は朝イチの新幹線に乗っていった。




結婚式だー!!と、早起きしてからちょうど24時間後。静けさだけの宇都宮駅の前でみのりんと2人っきりになってしまった。







急に今までにないくらい恥ずかしくなってきてしまったところで、みのりんが一言。




「私、幸せだよ」







「俺も幸せだ。これからも、ずっと一緒に歩いていこうね」






俺は胸の奥がきゅーんとしながら、みのりんにそう返した。




のだが………。





「そうだね。とりあえずあと10分くらいで朝ラーのお店が開くから、そこまで歩いていこっか。………ほら、手出して」



そういう意味じゃなかったんですけどねえ。





そんなわけて、これから遠出するサラリーマンや夜勤明けっぽいお兄ちゃんに混じりながら、みのりんと一緒に、優しい塩ラーメンを啜った。



小鳥が囀り、朝日か少しずつ差し込んでくる中、シンと静まり返った家に戻ってきた。



とりあえずザバーッとシャワーだけ浴びて、お昼過ぎには子供度を迎えにいかないとね。



なんて話ながら、2人て爆睡。




気付いたら午後3時を回ろうとしているところだった。




2人して目覚ましもかけずに仲良くぐーすかと、やってしまったと飛び起きて、慌ててみのりん母に電話をした。




「あらー!昨日はいい結婚式だったわね!私とお父さん、ずっと泣いてばっかりで恥ずかしかったわぁ。今、起きたの?そうだと思った。子供達はもらったおもちゃで楽しそうに遊んでるから、ゆっくり来て晩ごはん食べてってね、時人君。娘にもよろしくね」




と、言ってもらえたので、スマホに来ていたメッセージをお返事しながら、みのりんの支度が終わるのをゆっくりと待っていた。




途中スーパーで軽く買い物をして、みのりんの実家に突撃した。



「どうもー、昨日はありがとうございましたー」



「おお、時人君!お疲れ様!凄かったね!ずっと泣いてしまったよ!」



お出迎えしてくれたのはみのりんのお父様で、俺の顔を見るなりニコニコでリビングに招き入れた。



そこては、双子ちゃんかジュースを飲みながらお楽しみ中。



かえでは、高性能の野球盤を夢中で弾いており、もみじは真面目な顔をして携帯ゲーム機をピコピコしていた。



「おとう!ヤキューバン、やろー!ヤキューバン!」



「おお、いいぜ。お線香あげてからな」



「私もあげる」



隣の部屋の仏壇に向かい、上着を着たままマッチでろうそくに火をつける。目の前には数年前に亡くなってしまった、みのりんのおばあ様。



直接お会いすることが出来なくて、本当に残念である。結婚式に来て欲しかったのだが。




そんなおばあ様にお線香を上げたら、ビクトリアガレットをかじりながらかえでとヤキューバン勝負。



ガッツリ1試合やったところで、みのりん母が双子ちゃん達に……。



「お風呂沸いたらママと入ってきてねー」



と、言われていたので、俺はみのりん父と、うんと頷き合って、イソイソと出かける準備を進めたのだった。




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