才能が迸っていますわ!

5歳の女の子のデータが他にないので正確には分からないが、かえでは俺の投げたボールを捕球すると、素早く右手に持ち替えて投球動作に入る。



手の甲をしっかり内側に入れて肩の開きを押さえながら足を上げ、耳の横まできっちりテイクバックした右腕をきれいにしならせる。




踏み出した足もまっすぐこちらを向いていて、おケツと膝の踏ん張りで上体をキープしながら、スムーズに体重移動を完了させていいる。



シュッ!





パシーン!




「おおっ、すごいよ、かえで!やるじゃないか!」



「ほんと!すごい!?」




「すごい、すごい!こんなにちゃんと投げられるなんて、君は天才かよ!」




「やったぁ!はやく、はやく!」




かえではその場で何度も飛び上がるようにしながら喜びを露にし、俺に返球の催促をした。




俺は君がそうくるのならと、さっきよりも速いボールでかえでの期待に応えることにした。





パシーン!!





顔面目掛けて投げた4割打者のボールをまたナイスキャッチ。赤ちゃんよりも素早い持ち替え動作でかえではまた投げ返した。






「ナナちゃんもやってみる?」




「やる!キャッチャーやりたい!」




「あはは、キャッチャーね」




かえでに上手く洗脳されて、捕手志望の4歳妹にグラブをつけさせて、膝立ちになった俺の前に立たせた。



「よし、かえで!ナナちゃんに向かって投げろ!」




「わかったー!」




かえでは一切手を抜くことなく、速球を投げ込む。




その投球がワンバウンドになったので、後ろから手を伸ばしてボールを止めようとすると………。



「フンッ!!」




ザザッ!




ピシッ!!




ナナちゃんはグラブをはめた左腕をしめながら上体を真っ直ぐ立たせるようにして、ショートバウンドしたボールをしっかりブロックした。




一瞬視界から消えたように感じたくらい、ノッチよりも素早い反応と動き。下手に捕りにいくのではなく、ミットと体でボールを目の前に落とす動作と思考が身に着いていた。



完全に捕球出来なくても、ランナーを進塁させなければそれでいいというプレー。




そして地面に落ちたボールを拾うと、どこで覚えたのか、ボールに付いた汚れを右足のももの辺りでふきふきしてから、かえでちゃんにボールを返した。




そして俺の前まで戻って来ると、いないファーストとサードにバントあるから頭に入れとけよというジェスチャーを施した。



何か考えるようにしながらしゃがみ込んだナナちゃんは、おまたをイジイジしてかえでにサインを出してから、バシンと右手で叩いたグラブを構えた。





もう4歳の女の子の動きではない。




「おとう、肩あったまってきたから、バッターやって!」




「俺がバッターやるの?」




「にいちゃん、よんわりだしゃでしょ。びびってんの?」




普通、お子さまの方がバッターやりたいってなるはずだと思うんだけど、2人がそう言うのならやってやろうやないかい!




「ナナちゃん、ちょっと」



「うん」




かえでがナナちゃんをマウンドまで呼び寄せ、内緒話。サインの確認をしているようだ。




いっちょ前にグラブで顔を隠したりして………。




てか、何を投げるつもりなんだよ。





フリスビーをして遊ぶみのりんともみじを眺めているとナナちゃんが戻ってきた。



「にいちゃん、ほんきでやってね」



「当たり前だろ」



「おとう、ナナちゃん!いくよー!」



「おっしゃ、こい!!」







ピシュッ!






甘い。





カシーン!




アウトコースのボールに対して上手くバットを出した。下っ面を叩いた打球は右方向に向かってグングン飛んで行く。





「きゃらめるー!」




かえでがそう叫んだ。




「オンッ!!」







パシッ!







なにぃ!?



いつの間にナイスなポジショニングを取っていたきゃらめるが、やや後ろに下がりながら大きく口を開けてナイスキャッチ。



ボールをくわえたまま、ダッシュでかえでの元に走っていった。





「えらいね、きゃらめる。ありがとう。………はい、おやつ」



「オンッ!」





かえではボールを受け取ると、ポケットからちぎったジャーキーをきゃらめるに与えたのだった。



本気でやるのなんてあほらし。



そう思ってしまった俺は、ボールも1つしかないし、暑いからきゃらめるもゼーハーゼーハーしている。


ちょうどかえでにピッチャーゴロで返したり、キャッチャーフライを狙ったりしながら娘と32個年下の妹と戯れていた。




「時くーん。そろそろご飯にしよー」



「オッケー」




後ろで遊んでいたもみじとみのりん達もフリスビーには飽きてきたようだし、ちょうどいい時間なのでお遊びは切り上げて昼飯に移る。




水道でジャバジャバと手を洗い、三角の屋根が着いたテーブルとベンチがあったので、そこにみんなで腰を下ろした。




「さすがに気温が上がってきたな。あっつい」



「そうだねー。はい、タオル。おチビちゃん達もちゃんと汗拭いてね」




みのりんが渡してくれたのは、背番号4 トキヒト アライと書かれているピンクの応援タオル。



それで自分と横に座ったナナちゃんの汗を拭いてあげながら、広げられるお弁当を凝視していた。




「はい、こっちはおにぎりと唐揚げと卵焼きとミートボールでーす!」



「おお、すげー!」



海苔を巻いた具だくさんのおにぎりに、混ぜご飯系のやつもある。



「こちらはサンドイッチになってまーす」



母親が保冷バッグから取り出した中身は、ツナやレタス、ハム、タマゴサラダ、分厚いトンカツと、サンドイッチの詰め合わせ。



俺はシャケが外まで飛び出しているおにぎりとソースが絡んだキャベツもたっぷり挟まったカツのサンドイッチの両方に手を伸ばした。







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