お犬様のアツが尋常じゃねえですわ!
ガチャリ。
「「おばーちゃーん!!」」
「はいはい、いらっしゃい、かえでちゃん、もみじちゃん!ちょっとおっきくなったかしらねえ?」
玄関に入るなり、かえでともみじはうちの母親にガバッと飛び付いた。
その横。ちょっと柱の陰になるところで、きゃらめるが鼻をヒクヒクさせながらこちらの様子を伺っていた。
それと同時に、こちらも負けじとナナちゃんが俺に飛び付いてくる。
「にいちゃん!」
「はい、抱っこ、抱っこ!あらま、ナナちゃんもちょっと大きくなりましたわね!」
「きょうって、ピクニックなんでしょー。はやくいこう!」
「ちょっと休憩してからね。……………」
「どうしたの?」
「きゃらめるが俺のこと分かってない気がして。ほらー、きゃらめるー。愛しのトッキーだよー」
抱っこしていたナナちゃんを下ろして、手を広げてみたが、ブスッと鼻を鳴らしただけで、母親の足元に隠れるようにそわそわ。
「5年ぶりだもんねー。ちょっと戸惑ってるのかもね」
みのりんがそうフォローし………。
「きゃらめる!あなた、川で助けてもらって名前付けてもらったんでしょ!?忘れちゃったの!」
母親もそう言ってグイグイときゃらめるの体を押した。
「クゥー………クゥー…………」
不安げな鳴き声を漏らしながら、恐る恐る俺に近づき、手の匂いを嗅いだ。
その瞬間だった。
「クオォンッ!クオォンッ!」
突然人が変わったように、ぱあっ!っときゃらめるの表情が明るくなった。
靴を脱いで上がろうとした俺を押し倒す勢い。父親が愛用しているゴルフシューズの匂いが俺に襲いかかる。
「クオォンッ!クオォンッ!クオォンッ!」
鼻なのか喉なのかお腹なのか、どこを鳴らしているのか分からないワンちゃんの嗚咽。
普段、双子ちゃんやナナちゃんに対しては、お利口さんで常に側で寄り添うようにしていたという優しいワンちゃんとして通っていましたから。
まるで俺を噛み殺そうとする勢いで迫る姿を見て3人の子供達はちょっと口を開けたまま、びっくりしてしまっている様子だ。
「とりあえずみんな入りな。ビクトリアガレットとジュースあるから。かえでちゃんともみじちゃんはオレンジジュースでいい?」
「うん!」
「ガレット食べる〜」
ビクトリアガレットの魅力に取り付かれている双子ちゃんは母親とリビングに向かった。
俺はようやく立ち上がって、まあまあときゃらめるの鼻先を宥めながら、不思議そうに見つめるナナちゃんをまた抱き上げた。
「クオォンッ!クオォンッ!クオォンッ!」
きゃらめるは俺と気付いた瞬間からもう興奮が止まらずに、俺に向かってタックルを仕掛けたり、一旦双子ちゃんを追いかけて見たり、ナナちゃんの周りを回ってみたり。
さらにはみのりんのおまたの匂いを嗅いで、俺のおまたの匂いとちゃんと合っているのか確認したりとやりたい放題になってしまった。
もう落ち着かせるのが大変で、大変で。
とにかくお約束の外遊び。
「うわーい!」
「うわーい!!」
ちょっとした丘の上公園に到着すると、かえでとナナちゃんが一目散に走り出す。
「あんまり走ると転ぶよー」
というみのりんの言葉など聞こえるはずもなく、ビクトリーズのキッズキャップを被った2人はおもちゃのバットと小さなグローブを持って遠ざかっていった。
「時くん、これ重いからちょっとよろしく!」
「任せろ!」
「時、こっちも」
「ヘイヘイ。ほら、きゃらめるもおいで」
「オンッ!」
みのりんからたっぷりおにぎりの詰まった重箱と飲み物が入ったバッグを受け取り、俺も子供達を追いかけて走った。
やってきたちょっとした丘の上公園は、ある程度手入れがされた芝生が一面に広がっており、チビっ子を思い切り遊ばせるにはこれ以上ない場所。
バット、ゴルフクラブなどを使った遊びや練習禁止。
花火、キャンプ禁止。
犬のフンは必ず飼い主が片付けて下さいなどと、後付けの警告看板が立っているだけで、俺達以外にも同じくらいの子供達を連れた家族連れが複数見えた。
「おとう、キャッチボールやろー」
「おう!」
「ナナもやるー!」
「おう!がんばれ、4割打者の妹よ」
荷物を下ろしたら、早速カラーボールでキャッチボールを始めた。
10メートルないくらいの距離で、かえでに向かって適当に投げる。
ペシィ!
そのボールをかえでは、しっかりとグローブの芯で掴んだのだ。
こいつ、やりおりますわ!
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