君の方が心配なんだよ。
「はーい!腕を上げて下さーい!…………腕を下げて下さーい! はい、立って、おケツも洗いますよー! おまたは自分で洗って下さーい!」
双子ちゃんとなるとなかなか大変である。単純に手間が倍だから。しかし、楽しさも賑やかさも倍になる。
「はい、かえでちゃんはあわあわを流して終わりでーす!」
「ありがとー!」
「次はもみじちゃん、どうぞお座りくださーい!」
「つよめでお願いします!」
「なにが?」
「かえでちゃんは、おとうの頭をシャンプーして下さいねー。重要なミッションですよー。失敗するとおとうの頭が将来寂しくなってしまいますからねー」
「うん! じゃあ、このマジックリンで……」
「ちょいちょいちょい!」
「キャハハハハ!」
という感じできれいに体を洗い終えて、湯船にジャポン。俺があぐらかくようにして座り、両膝に双子ちゃんが座る。
アヒルのおもちゃが水面を浮かぶ。
「幼稚園ではさ、どんな歌を歌うのかしら」
「うーんとねえ………」
もみじが天井を見上げるようにしながら少し考え、歌い出した。
「舞い上がり〜……揺れ落ちる〜……肩の向こうに……」
「それ天城越えやん! ボケが5歳児のそれじゃないんよ!」
「パパよく分かったね〜。ピンと来たの?」
「ピンと来ちゃったよ」
「かえでも歌うー!ビクトリーズの歌やるね! にっこうざんの〜……ふもとから〜…」
「おやおや。盛り上がってますね」
「みのりん!!」
浴室のドアがゆっくり開かれると、エプロン姿のみのりんが多少ニヤニヤしながら、こちらを覗き込んできた。
そして、スマホを取り出す。
「写真撮っていい?」
「おう!2人とも、写真だ!!乳首を隠しなさい。乳首だけは隠しなさい」
「おとう、おケツは?」
「おケツは出しなさい」
「分かったー」
「かえで!おっぴろげないで!パパの戯れ言なんて本気にしなくていいの!」
「ギャハハハハ!!」
というわけで、肩まで湯に浸かる感じでパシャパシャとシャッターを切られてしっかりと100まで数をかぞえてお風呂から上がり、2人の髪の毛を乾かした。
みのりんと一緒でさらさらとした髪質。手の平がタコだらけの俺の手では、触れているのか分からないくらい、子供らしい繊細な髪の毛。
マイナスイオンが出るドライヤーで丁寧乾かすと、よりツヤツヤしたものになった。
「よっしゃ!みのりんメシ、キター!」
「キター!」
「キター!」
体はポカポカ、お腹はグーグー。ダイニングテーブルに座り、目の前に並べられた色取りどりのメニューに目を光らせる。
「それでは、おててを合わせまして………いただきまーす!」
「「いただきまーす!!」」
冷たい麦茶をグイッとひと飲みしてから、まずはクルトンの乗ったグリーンサラダに箸を伸ばす。
玉ねぎとレタス、トマトのハーモニー。
「おおっ、もみじの作ったドレッシング美味いな!ピリッと効いたスパイスがサイコーだぜ」
「ウフフ、ほんとう?」
「ホント、ホント。かえでの蒸し野菜も甘くて、ホクホクで美味いな!天才かよ」
「エヘヘ………」
双子ちゃんはパッパに褒められて照れた表情を見せながら、同じ勢いで野菜にガッつく。
そしてみのりん特製のハンバーグも。クリームで煮込まれ、ホロホロに柔らかくなりながらも、中はしっかりとジューシー。
表面のこんがり具合もサイコーで、ご飯もよく進む。
「おかわりお願いします!」
「りょーかい」
「おとう、はやいね!」
「これが野球選手の食いっぷりよ。……2人は真似しちゃダメだからね。ゆっくり噛んで食べてな」
俺は若干引き気味のもみじの顔色を眺めながら、おかわりのご飯も軽く平らげる。
よしよし、5年ぶり。しかも1ヶ月病院食だったとはいえ、俺の胃袋は相変わらずみたいだ。
このままみのりんまでも美味しく頂けそう。
「食後にはデザートに、シャインマスカットもあるからな!楽しみしといてくれよ」
「パパ、何で知ってるの〜?」
「ママのお手伝いしながらちゃんと買ってきたものは把握しておかないと。ただお手伝いするだけとは違いますよ。手に入れられる情報はどんどん自分のものにしていかないと、まだ小さいからってボヤボヤしてたらダメなんよ」
「なるほど〜」
「おとう、すごいね!」
「まあな!」
「時くん、子供達に変なこと教えないでね?」
君の方が心配なんだよ。
「いや〜、この辺りも5年経つと、まあまあ変わってますな〜。……あっこのパチンコ屋なくなって家具屋さんになってますやん」
「もうそろそろ着くからねー」
「おじいちゃんち?」
「そうそう!パパの実家だよ」
「きゃらめるに会いたいな〜」
翌日。今日は8月末だが、比較的気温は穏やかだったので、みのりんに運転してもらって宇都宮から那須塩原までドライブ。
ちょっとした小高い場所にある公園までピクニックに行く算段である。
うちの実家に到着し、父親が仕事に出て空いたスペースに車を止めた。
すると、家にいた母親が気付いたみたいで、カーテンを全開に開けながら玄関に向かうのが見えた。
その母親の足元には、大きくなったゴールデンレトリバー。きゃらめるの姿もあった。
なついているはずのみのりんと双子ちゃんが来たのに、なんだか顔が警戒モード。その原因は俺がガラス1枚を挟んでじっと見つめているからだろうか。
お前誰や……?何処のもんや………。でも、何か忘れているような………。
化け物退治を引き受けて、村から西の洞窟に向かった先のイベントを思い出す。
ちょっとリボン的なものはないが。
ガラスを挟んでも、川から救い上げたご主人であるわたくしですから、てっきりすぐに気付いてすぐに大暴れしてくれるもんだと思っていましたけど。
仕方ないからそのまま玄関に向かうことにした。
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