湯気も謎の光もございませんわ!
「リンゴはアッポー! 犬はドッグ!!」
「おとう、鳥さんはー?」
「鳥さんはねー。ほら、お昼食べる前に見てたニュース番組の司会者の名前はなんだったかしら? なんとか白鳥さんって言ってたでしょ?」
「バード!バード、白鳥さん!」
「そういうこと〜」
「パパ、これどういう意味ー?」
「これはねー、500円おこづかいを持ってて、120円のお菓子をいくつ買えますか?ってことだね。あと、お釣りはいくらですか?……両方書かなきゃいけないんだね〜。応用力が問われますね〜」
「何味のお菓子?」
「そんなところに発想を広げなくてよろしいです」
最近の幼稚園は、簡単な英語の授業があったり、余りを求める算数の宿題があったり。
急に日本列島のイラストが出て来て、富士山とか琵琶湖とか、津軽海峡とかそういうシールを適切な場所に貼っていくやつがあったりとか。
なかなかに凝った勉強もやってるみたいだ。
「おとう、英語出来たー!」
「おっ、やるね!かえで。それじゃあ、野球に関する英語の問題だ!」
「野球の!?やったあー!!」
野球というワードが出た瞬間、かえでの目がギンギンに輝く。
俺はチラシの裏に、野球のグラウンドを書いて9つあるポジションの名前をかえでに問うてみた。
「分かるよー!ピッチャー、キャッチャー、ファースト、セカンド、サード、ショート、レフト、センター、ライト!」
「すごい!ちゃんとサード、ショートの順番で言えるのはすごいぞ!さすが我が娘だ!」
俺はかえでの短い髪の毛ごと、頭をわしゃわしゃと撫でてあげた。
「パパ!もみじにも問題出して!」
「オッケー!それじゃ、もみじちゃんは勇者です!!」
「ゆうしゃ!?」
「勇者もみじちゃんは、酒場で出会った戦士のかえでちゃんと、魔法使いのみのりんに出会って、魔王ヨンワリダシャを倒しにいきます」
「うん!それで〜?」
「勇者もみじは、3000ゴールドを握りしめて武器屋に行きました。武器屋では、鉄のつるぎが1800ゴールド。どうのつるぎが800ゴールド。鉄のよろいが1200ゴールド、鉄の盾が700ゴールドで売っています!
今揃えられる最強の装備を考えて下さーい!ちなみに勇者もみじと戦士かえでは、500ゴールドで売れる鉄のおのと、300ゴールドで売れる皮のよろいを装備していまーす!」
「わかった〜!ちょっと考えてみる!………ママは、何の魔法が使えるの?」
もみじは俺が書いたチラシを持ってみのりんにそう訊ねた。
「ママはね…………ラーメンの味を見抜ける魔法を…………」
「パパ〜………ママはいらないから、身ぐるみ剥いで酒場に預けるのはオッケーですか?」
「うん、いいよー!」
「ちょっと、時くん。どんな教育してるの!?」
「いやいや、もみじが自発的に……」
「だから問題なんです」
どうしてわたくしが怒られますの?
「おかあ!おとうとお風呂入りたーい!」
「もみじもー!」
「そうだね。ご飯の前に入っちゃおうか。そうすればいつでも寝れるし。お風呂沸かせる?」
「出来るよ!もみじちゃん、いこー」
「うん!」
「時くん!ちょっとお手伝い頼んでもいい?」
「オッケー!」
俺はスマホをいじっていた手を止め、キッチンに向かってみのりんのお尻を撫でた。
「あら、いつもの。………ホワイトソース焦げないように見ててもらえるかしら」
「よろしいですわよ」
みのりんは俺に小鍋を託して、鉄フライパンを熱して油を垂らした。
「ママー、お風呂沸かしてるー!」
「ありがとう! 2人もお手伝いよろしくね」
「あら、あなた達。料理のお手伝いなんて、出来ますの?」
「出来るよー!かえで、お野菜スチームする!」
「わたしはドレッシングやる!」
どうやら日頃からみのりんに仕込まれているようで、2人はそれぞれ作業に取り掛かる。
かえでは、みのりんがカットしたニンジンをスチームマシンに投入。受け皿にお水を張ってスイッチオン。ちゃんと時間を計ってタイマーを仕掛けたようだ。
「ニンジンは熱が通りにくいから最初に5分やるんだよ。そのあとに、ヤングコーンとブロッコリーも入れるの」
「なるほどね」
対するもみじちゃんはドレッシング担当。
小さめのステンレスボウルに、オリーブオイル、バルサミコ酢、レモン汁、醤油を加える。
ちゃんと計量スプーンで計りながらも素早い作業。軽く馴染ませたそれに、半かけ分のおろしニンニクと乾燥バジル、塩こしょう、ブラックペッパーを混ぜて勢いよくかき混ぜた。
「ドレッシングはそれで完成?」
「そうだよ! バジルが入るとさわやかで美味しいんだよ」
「素晴らしいアイディアですわね!」
「お風呂沸いたよー!入ってきちゃってー!」
「わーい!」
「わーい!」
「わーい!」
小鍋など放り出し、バンザイしながら脱衣所に走ると、後ろを双子ちゃんが一生懸命着いてくる。
「さあ、脱ぎ脱ぎしますよ〜!ドン引きしないでね〜」
3人で競うようにして着ている服を全部脱ぐ。
それぞれ脱いだパンツを頭に被り、変態トリオになったところで、みのりんに叱られながら部屋を1周してから浴室に入る。
「はーい!順番に洗いますよ〜。かえでちゃんからいきますからね〜」
「うん!」
「もみじちゃんはパパの背中を流してくださーい」
「わかったー」
明るいピンク色の、丸いボディボールにボディソープをワンプッシュにして、あわあわにし、椅子に座らせたかえでの体をごしごし磨いていく。
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