これ、マリカ9やんけ!
かえでちゃんがみのりんから渡された鍵を使って、ドアを開け放つ。
すると、6年前とはあまり変わらない。しかし家族が増えたからか、わずかに感じる変化とかその両方が、俺の体にぶわっと流れ込んできた。
「パパー!ゲームやろー、ゲーム!」
「ちゃんと手洗いうがいしてからねー」
「おとう、キャッチボールは?」
「キャッチボールはまた今度だなー。かえでちゃんも手洗いうがいちゃんとやってね」
双子ちゃんがフィジカルを競い合うようにして、電気も点けずに洗面所へと流れ込んでいく。
俺とみのりんは手分けして持ってきた荷物を置きながらふうっと息を吐いた。
「お茶でも淹れるね。久しぶりにビクトリアガレットも食べたいでしょ?」
「食いたーい!」
「ちゃんと手洗いうがいしてからね」
「はーい!」
「うおらぁ!チビ達、そこをどけぃ!」
俺が双子ちゃん達の間に挟まるようにして、洗面所に入り込むと、かえでともみじは楽しそうにキャーキャー言いながらさらにはしゃいだ。
俺の出したすっかり白くなった手に、若干ピンク色である泡状に出るハンドソープをこれでもかと吹きかけた。
そんな感じで逆に双子ちゃん達に急かされながら手洗いうがいを終えた俺はリビングのソファーにドカッと座る。
すると、もみじがテレビ脇の棚からゲーム機を引っ張り出してきた。
「パパ、かえでちゃん!マリカやろー、マリカ!」
「うーん!」
「いいよ。コントローラーあんの?」
「あるー。1個はプロコン」
「5歳児がプロコンなんて言っちゃいけません」
「冷めちゃうから、お茶飲んでからにしてねー。はい時くん、お茶」
「サンキュー」
「かえでも」
「サンキュー」
「もみじはいつもの梅こぶ茶でいいよね」
「てんきゅー」
5歳児が梅こぶ茶なんて飲んじゃいけません。
「「いただきまーす!」」
テレビをボチンと点けまして、お昼前の情報番組を見ながら、4人で各々おこたテーブルを囲むようにして、親会社のお菓子をバリバリ。
「今、注目!クリームたっぷりスイーツ!」
みたいな特集コーナーで、生クリームやカスタードクリームに新人女子アナがまみれにまみれるというシーンが放映されている。
「時くん。おやつ食べちゃったし、お昼1時くらいでいいよね。ナポリタンくらいなら出来るし」
「そうだね」
「夜は食べたい物ある?」
「いっぱいあるなぁ」
「しばらくはずっとパパのリクエストだから、考えておいてね」
「それはちょっと悩んじゃいますねえ。ちなみにかえでともみじは何食べたい?」
「ハンバーグ!」
「シチュー!」
「ハンバーグとシチューか。確かにいいチョイスですわね!!」
「それじゃあ、両方だね。ハンバーグのクリーム煮作るね!お昼食べたらお買い物行くから、2人をよろしく!」
「おう、任せろ!!あと、アイスも!」
「まかせろ!」
「まかせろー!」
輪切りにしたウインナーと玉ねぎ、ピーマンが入ったナポリタンを平らげ、洗濯機を回したみのりんは買い物に出かけた。
そして俺は双子ちゃん達とゲーム対決。何せ5年ぶりですから。
コントローラーを逆さまに持ったり、何故か頭に乗せて右いけ、右!と叫んで動かそうとする……というボケで2人から笑いをかっさらいながらも、ドクキノコサーキットできっちりミニターボを生かしながら大人げなく勝つと。
5年ぶりでも、こちとらファミコン時代からゲームの歴史を肌で感じているわけですから。
5歳かそこからの青いおケツには負けられんのですよ。
俺はみのりんのお腹が大きくなった頃から決めてたもんね。子供相手とはいえ、ゲームで手加減などしたりはしないと。
本気でぶつかり合うと。
俺のキャラクターが1位でビュイーンとゴールを決めると、俺は………イヤアァァァッ!!と叫びながら喜びを爆発させる。
なんとなくコースアウトのオンパレードで、パパ下手たねー!などとからかうつもりでいた娘達の顔つきが変わる。
次のコースからは3人ともロケットスタートを決め、双子特有の阿吽の呼吸で俺を負かしに来たり、それを見切って俺が片方を潰しにかかったりと、一進一退の攻防で、互角の勝負を演じることとなった。
最後はゴール前のトゲ甲羅。あれの餌食となった俺の惜敗であった。
「ただいまー! 盛り上がってるねー!後でママも混ぜてねー!」
「おかえりー!よーし、2人とも、ゲームは一旦中断だ!」
「えー!?もっとやりたーい!」
「ママが帰って来たんだからお手伝いしないとねー。それに2人とも、幼稚園の宿題があるんじゃないか? パッパが見てあげるぞー」
俺の教育方針は、感謝と謙虚と努力ですから。家族が帰って来たらおかえりと行って、出かける時は、いってらっしゃいと顔を見て告げる。
誰かが頑張ったら誉めてあげて、悪いことをしたらちゃんと叱る。そこに父も母も子供も関係なし。誰かが誰かにしっかりと言葉で告げるのだ。
我々がゲームで遊んでいる間に、ママがお買い物してくれたんだから、まずはそのお手伝い。
重たいビニール袋を玄関からダイニングまで運び、ハンバーグを作ると言っているんですから。
まずは挽き肉と牛肉を冷蔵庫にしまい、玉ねぎとにんにくと、付け合わせに使うコーンとブロッコリーとニンジンはテーブベジタブルボックスに入れてテーブルに出しておく。
そして自分のお菓子の回収は絶対に忘れない。
常に思考して先を見越した行動をして、しっかり周囲の人間のポイントを稼いでいく。
そういう姿を子供達に見せていくのだ。
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