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「びっくりした?…………」
「これって、1ヶ月分だよね?」
「そーだよ」
軽い気持ちで開いた請求書。入院費、継続治療費、付随費、機器リース費などなど。何でもいいから名前を付けて、イケるところまでこいつからむしり取れ!という病院側の執念を感じる。
これをかけ12、さらにそれを年数でさらにかけると、2億円に届こうかというそんな請求金額であった。
マジで保険に入っておいてよかったですわ。
それよりも………。
「朝まで6年間も眠っていたばかりなのに。みのりんに寂しい思いさせてばっかりだったのに………」
目を擦る度に瞼が重くなる。
「これからたくさん時間はあるよ。朝になったらまたあの子達が来るんだから、しっかり休んで元気になって。早く退院してラーメン食べに行こうね」
俺はみのりんのそんな囁きを耳にしながら、また眠りについたのだった。
またラーメンって言った、この眼鏡……。
「えー。皆さま、お集まり頂きありがとうございます。ビクトリーズの球団代表でございます。それでは昨日お伝えしました通り、新井時人についての会見を開きたいと思います。何とぞよろしくお願いします」
午前10時。テレビをボツンと点けますと、昨日会ったおじさま2人がビクトリーズのロゴが入った壁を背にして、何やら資料を見ながらマイクを握って緊張した面持ちだった。
話すのはわたくしがお目覚めになりましたことと、僅かながら面会した時の様子、そして今後の見通しについてだった。
一言一言を話すたびにカメラのシャッターが切られてちょっと眩しそう。
そして一通りの説明が終わると、集まったメディアや記者からの質問タイムになった。
「お疲れさまです。ダイヤモンドスポーツ里山です。新井選手本人が出て来られます機会はいつ頃になるでしょうか?」
「そうですね。……本当に目を覚ましたのがちょうど今から24時間程前になりまして、今はご家族の方々と面会した合間の時間に、私や選手顧問、阿久津監督が少しの時間だけ病室にお邪魔出来たという形でしたので、本人が現れる会見となりますと、まだしばらくの時間が必要になるかと思います」
「ビクトリーズとの契約はまだ結んでいる状態かと思いますが、選手としての復帰はどのくらい先になるでしょうか。以前のような輝かしい活躍を期待してもいいのでしょうか」
「もちろんその辺りも本人や担当医師との話し合いをしてからになりますが、今のところの本人の意志としまして、いつになるか分からないが選手としての復帰を目指したいという言葉はありました。
しかし、この6年間では、奥様は出産なされたり、我々には想像しえない苦労がある中で、一家の大黒柱が………ということですから、ビクトリーズ球団としましても、まずはご家族との時間を大切にしてもらって、いち早く日常生活に復帰して、あるべき姿、その生活というものを取り戻すためのサポートをしていきたいと考えております」
そんなのがわざわざ芸能人の不倫問題をやる時間をぶっだ切ってまで生中継され、映像はスタジオに戻り、スポーツ方面に詳しいコメンテーターがあーだこーだと喋り始めた。
ちょうどその頃。
「おとうー!」
「パパー!」
「にいちゃーん!」
ステステと廊下を駆ける音が聞こえて、そのままの勢いで3人の幼女が俺の元へ飛び込んできた。
「こらこら!急に乗っかったりしないで!」
みのりんが口を尖らせながら、1番乗っかってきたかえでちゃんを抱き抱える。
「ねえ!おとうはいつ野球始めるのー?」
「野球かー。かえでちゃんは、おとうに野球やって欲しい?」
「やってほしい!だっておとうはすごいバッターだったんでしょー?かえでにも教えてほしい!」
「あら。かえでちゃんは野球やりたいの?」
「やりたい!ピッチャーとバッター、どっちもやりたい!小学生になったら、ビクトリーズの野球クラブ入る!」
「どっちもやりたいのか。大変だぞー!」
「だからおとうがちゃんと教えてよね」
「そうだね。………もみじちゃんも野球やりたい?」
「もみじは野球ゲームの方がいい。かえでちゃんよりずっと上手いよ」
「そーなの?」
「かえでちゃんはね、配球が単調」
「5歳の女の子の台詞じゃないのよ、それは」
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