第2話 地下へ落ちる
エレベーターはさらさらと地下へと沈んでいく。シュウジは膝を抱え座り込んだまま涙を三つ四つと頬から零した。周囲に聞こえないよう小さい嗚咽を吐いては鼻水を啜り、そうしてまた、周囲に聞こえないよう小さいうめき声をあげ、またしても鼻水を啜った。いつ終わるか分からないほどにぐずり続け、頬から涙が乾いても母の顔を思い出してはぐずぐずとだらしなく泣き続けた。
「このたびは「アンバー」行きエレベーターをご利用いただきありがとうございます。はるか遠い昔より、琥珀が採掘されてきたこの地域は「アンバー」と呼ばれ、この国の人々に親しまれてきました。この「アンバー」で採掘された琥珀は非常に価値が高く、装飾品を初めとして様々な分野でこの土地に潤いをもたらし、豊かにしてきました。それではこのエレベーターにご乗車頂いた皆様、皆様のここから始まる地下への旅が、貴方にとって価値のあるものになりますように」
チープなチャイムと共に、やけに綺麗で機械的な女性の声が流れていった。
「お客様大丈夫ですか?」
ひとつも皺のない、緑色の制服の男性職員がシュウジに声をかける。赤くなった眼と唇のシュウジは顔をあげた。
「すいません、大丈夫です」
「そうですか、それならいいですけど」
左手で雑に眼を擦ったシュウジは、さっきまであった母との別れの感情は表に出ず、驚くほど当たり前に笑顔で答えていた。擦れた小さい返答は白い壁にしみこんでいく。
「申し訳ありませんが、お席のほうに移動して頂いても良いでしょうか?出入り口でお座りされますと他の乗客の皆様にご迷惑となりますので」
左手で席を促す仕草を眺めた。
「すいません、今すぐどきます」
衣類で膨らんだリュックとポリ製の手提げ袋を両手で掴み、そそくさと移動していった。それは座り込んでやっと3,4時間がたった頃である。赤い眼をした少年を横目で見る人々は強張った表情をして距離をとっているように写る。
ジーンズのポケットに入れていたくしゃくしゃになった乗車券を取り出すと、首を下げ、目立たぬように足音も出さずシュウジは自分の番号の席まで歩いていった。
大きな縦長のエレベーターの席には、左右それぞれに色んな人が座っていた。
左手の親指と人差し指で挟んだ乗車券を掴んだまま、どんどんと奥へ進んでいく。
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