石矢君と恋バナ
神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)
第1話
「
坂木君は、首を傾げる。
「それ、同じじゃない?」
「違う」
「お前の愛情は憎悪に基づき、この美少年は入口こそ嫌悪そのものだろうが、今は私の底意地の悪さに心酔しきりだからな」
何を言っているのか、よく解らない。
「だから、同じじゃないの? それ」
「伝わらないなぁ」
僕は空を見上げる。人差し指で、頭をつつく。
「呉さんが絵を描いて、坂木君がそれを文にしなよ。いつもやっていることだろう」
「それはそうなんだけどさ」
呉碧は、露骨に嫌そうな顔をする。
「じゃ、提案」
呉碧は、人差し指を立てる。
「私は、絵を描く。その間、石矢君は坂木を好きになった理由を述べよ。全く意味不明だから」
「酷いことを言うな、君は」
僕は、二人のやりとりに苦笑する。
「解った。話すよ」
きっかけは、坂木君の怪我だった。
一度、登校中に自転車同士の事故を目撃した。その後、坂木君を保健室に連れていったことがある。だから、坂木君と言えば、なんとなく怪我のイメージが浮かぶ。そして、実際、坂木君はよく小さな怪我をしていた。それも、どうやら自分では気付いていないらしい。傷口を認知しないと、痛みが出ないのだ。初め、てのひらの皮がすっかりすりむけて一寸四方ほど垂れているのにすら関知しなかったほどだ。僕が指摘しなければ、坂木君のてのひらは、いずれ化膿していたことだろう。
「馬鹿なの?」
絵を描きながら、呉碧はのたまった。
「それなら、こことここに傷口の絵を描いてみなよ。本当に痛くなってくるから」
坂木君が指し示したのは、呉碧と僕の手の甲。呉碧は頷き、ペンケースから赤いペンを取り出すと、ささっと傷口を創り上げた。
「あれ? 二人とも、手を怪我しているんじゃないかい」
坂木君は、わざとらしく言う。偽物の血肉に目を遣る。あれ、実際に血が溢れ出してきそうな気がしてくる。
「痛くなっただろう?」
坂木君は、意地悪く笑ってみせる。つまりは、反対のことだと証明したかった訳だ。腹が立ったらしく、呉碧は坂木君の後頭部を小突く。僕は、坂木君の手の甲をつねった。
石矢君と恋バナ 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho
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