第5話 黍嵐

 これは私が母から聞いた話です。


 季節は確か秋、風の強い日でした。

 うちには栗の木やキササゲの木など落葉樹が複数あり、葉っぱや栗のイガの処理には毎年頭を悩ませていました。


 当時は今ほど野焼きや焚火をする際の規制が厳しくなく、まあ田舎ということもあり、その辺で煙が上がっているなんてことは日常茶飯事でした。

 うちも例に漏れず、毎年頭を悩ませる自然の落とし物たちは焼却炉で燃やしていたんです。

 その日も母が熊手を使い葉やイガを猫車に集め、父が他の木箱やらなにやらとまとめて、焼却炉で燃やし始めたそうです。

 季節柄の乾燥も手伝ってよく燃えたそうですよ。さすがに轟轟と音を立てて燃える危険物から離れるほど父も抜けてはおらず、しっかりと延焼等しないよう見ていたそうです。

 1時間ほど経ったんでしょうか。火の勢いはすっかり無くなり、全ては灰となりました。父はもう大丈夫だと思い、その場を後にしました。



 父が家に戻ってきてから30分ほど経ったときでしょうか。遠くから消防車のサイレンが聴こえたそうです。空気が乾燥している、野焼きをする人が多くいるこの時期は毎年消防車が忙しく走り回ります。秋の風物詩となっている音を聴いていると…。


「ごめんください!」


 父が戻ってきてから30分ほど経ったときでしょうか。隣に住む幼馴染のお母さんがうちの玄関に飛び込んできたんです。あまりの剣幕に母はかなり驚いたそうです。


「ど、どうしました」

「燃えてます!あの、うちとお宅の間にある生垣が燃えてるんです」

「え…?生垣って」


 言葉がすぐに出なかったそうです。そして、先ほど聴いた消防車のサイレンは、どんどんとうちに近づいてきていました。



 両親が外に出ると、確かに生垣が燃えていました。先に述べたようにその日は強風で、かなり良く燃えていたそうです。幸いにも生垣を3、4本焼いたところで鎮火され、家屋への延焼等はありませんでした。

 まさか、放火?だとすれば大変悪質なものだ。両親と幼馴染のお母さんはそんな物騒な可能性を話していました。


「お話中すみません」


 母が声のする方を振り返ると、消防隊の1人がこちらに歩いてきました。


「この火事の原因ですが」

「はい、まさか放火なんてことはないですよね」


 消防隊は両親をしっかりと目線でとらえました。


「さっきまで物燃やしてたでしょ。たぶんしっかりと鎮火できてませんでしたよ。だからこの強風に乗って燃え残りが生垣まで飛んだんですね」


 まさかのことに両親、幼馴染のお母さんも絶句しそうです。焼却炉から生垣までは15m以上は離れているし、燃え残りだって空気中を飛んでいればその間に消えそうなものなのに。

 両親はそんなわけはないと弁解したようだったが、消防隊に現場まで誘導され、焼却炉を見せられました。

 そこにはほんのわずか、足の小指の爪にも満たないような灰がチロチロと風を受け瞬いていたんです。

 まさかとは思ったが、それは事実でした。


 結局、このボヤ騒ぎはうちの火の不始末が原因なのは確かなものとなり、後日両親は幼馴染のお母さんに菓子折りを持って謝罪に行ったそうです。もちろん、生垣の始末の宣言もしに。



 今回はなんとか隣人が早々に気づいてくれたため、事態が大きくならずに、ボヤ程度で済みました。これが民家に移りでもしたら…。考えただけでぞっとします。

 火は小さくても侮るなかれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本当に、本当にあった怖い話 蓮村 遼 @hasutera

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ