第4話 窓硝子

 これは私が小学生だったときのお話です。


 あれは確か、4年生くらいのときだったと思います。

 私の通う小学校では、昼休みの後に掃除を行っていました。

 あの時、私は家庭科教室の担当でした。まあ、やることと言えば、テーブルを拭いて、床を掃いて、黒板を綺麗にして…。小学生なんてそのくらいでしたかね。あと流しを綺麗にするのもやったような気がします。

 当時、いや今も結構真面目ですが、当時はかなり真面目にきっちりと先生に言われたことをする、いわゆるいい子を演じていました。だから、昼休み終わりのチャイムが鳴ると、真っ先に教室に向かい率先して掃除をしていました。



 私が掃除をしていると、続々低学年や高学年の児童が集まってきました。まあ、4年生ともなると低学年の面倒も見ていたわけです。『あそこも掃いてね』『ここもお願いね』なんてお姉さんぶって指示を出していたように記憶しています。


「ねえ、ここ開かないよ」


 確か2年生くらいの子がしきりに黒板側の窓硝子を引っ張っていたんですよ。


「どうしたの」

「黒板消し窓の外でバンバンやったんだけど、窓閉まんなくなっちゃった。ねえ閉めて」


 どうやら全開に開けた窓が閉まらなくなったようでした。

 やれやれ、まあ2年生だし力も身長もないからななんて思い、私も窓を引っ張ってみましたが、見事に閉まらないんですよ。

 私はかなり躍起になって引っ張りました。低学年の子に頼られた嬉しさと、変な意地が手伝い、これは私に課せられた重大な使命、果たせねば恥くらいに当時は思っていましたね。止せば良かったのに。


 ガタッ!


 あ、動いた!

 そう思ったとき、手元が急に軽くなったんです。というか、手元から無くなったんです。

 消えたんです、消えたんですよ。

 下の保健室のベランダにね。



 気づいたときには遅く、窓硝子はフレームごと外れ、教室の外へと身投げをしていました。ガシャーン!と金属フレームがコンクリートに叩きつけられる音、硝子が粉々に砕け散る音、複数の悲鳴がほぼ同時に聴こえました。

 全身の血の気が引きました。恐る恐る窓の外を覗くと、そこには盛大にひしゃげたフレーム、粉々となり一面をキラキラと輝かせるガラス片でいっぱいでした。

 下を見ていると、窓の開く音がして保健の先生がそーっと出てきました。一面の惨状を見渡し、ふとこちらを見上げたため、私は思わず隠れてしまったと記憶しています。


 まあ、幸いにしてけが人はなく、私はすっ飛んできた先生に事情を説明し、特に怒られることもなく注意だけでなんとかなりました。

 私の母校はかなり古く、当時は少しずつ建て直してはいたんですが、なかなか特別教室の方まで工事は進まず、後回しになっていました。窓硝子は歪み、もう限界だったんでしょうね。



 あのとき保健室の先生が外に居たら?生徒がいたら?

 私は幼くして、人殺しになっていたかもしれませんね。

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