第11話 結晶化
『口頭だけで説明するのも二度手間になるだろうし、先に
机の上にあった本が音もなく目の前に移動し浮遊している。
『さぁ、立ち上がって。本の表紙に左手を乗せるんだ。』
言われるままに立ち上がり、本に左手を乗せる。横目には椅子が元の位置へと戻っているのが確認できた。
『では、このまま大きな声で叫ぶんだ。
「ク、クリスタライズっ!!」
『…ふふ、本当は叫ばなくても良いんだけどね』
「ちょ、どういう事!!」
あぁ…そうだ、忘れていた。父は昔からこれだった。真面目に話をしている時に限って茶化してくる。私がどんだけ呆れたり怒ったりした事か。
怒りで震えそうになるのを堪えていると違和感を感じる。本に添えられた手が動かない。
「ねぇ。手が離れないんだけど…いっ!!」
突如、左手に感じた事がない激痛が起きる。内側から外側に向けてナイフで刺されたような有り得ない痛み。驚いていると、左手から音が聞こえてくる。
みしっ みしっと軋む様な音とヒィンと甲高い音が響いてくる。
なにこれ 痛い痛いイタイ、骨が折れてるの?どうなってるの?
痛みと音により頭の中は大混乱の私にさらなる変化が起きる。
左手の甲から水晶が生えてきている。それはビシビシと割れる音を出しながら増え、手首から腕へと徐々に範囲を広げている。
「や、やだ!やめて!父さん何これ!とめて、何かが、私の中に入ってくる!助けて!!」
手を本から離そうにも離れず、生えてきた水晶は肩から首にかけて進行してきている。水晶は体表だけでなく体の中のさらに中に入ってくるような感覚と共に頬にまで広がってきて、思わず目を瞑る。
『大丈夫、心を落ち着かせて。力の使い方は目が覚めてから教えるから。少しの間おやすみ。』
小さな頃に寝る時に聞かされた優しい声を耳にし、全身を結晶に覆われた感覚と共に私は意識を失った。
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