第8話 《遺言》メッセージ

『⚫️⚫️⚫️…』


「!?」


突如聞こえてきた声に驚き身構える。


『キミがこの声を聞く時、ボクはもうこの世にはいないだろう。』


父さんの声だ。久しぶりに聞く大好きだった唯一の家族の声に少女の頬に涙が伝っていく。


『大きくなったね…老けたかい?』


「はぁ!?」


『…ふふ、冗談だよ。この音声を聞いているという事は、キミがどうしても危ない時か、おばあちゃんになっているかの二択になる様に設定しているからね。この音声を設定している時、ボクのお姫様はベッドで良い夢を見ている最中だろうね』


あまりにふざけた事を言われて頭に血が上るが続きを聞く為に冷静になるように自身を落ち着かせる。


『…さて。そうか、此方の音声に分岐したという事は、身体的・精神的に相当疲弊しているんだね。…ごめんね。早くにキミだけを残して逝ってしまって』


唐突な謝罪。そんな事ない。当初は自分だけ残していかないでと泣いたり怒ったりもした。でも亡くなる直前まで自分の身体ではなく私の事を心配してくれていた事を今でも覚えている。


『このメッセージの続きを聞くにあたって2つの分岐を設けるよ。一つは困難に立ち迎える力。ただし、ただでは手に入らないよ。代償を支払ってもらう必要がある力だ。それは時にキミを苦しめるだろう。時にキミを孤独に陥れるだろう。いつか手にした事を後悔する事になる。ボクがキミにそう脅してしまうくらいの力だ。』


今まで聞いた事のない父の淡々とした口調に身がすくんでしまう。


『もう一つは忘却だ。この部屋で見たもの、聞いたもの、全てを忘れて貰って自身の力だけで生きていく。親心としてはこちらを選んで欲しい。平穏に人生を終えたいというのなら、絶対にこちらだからね』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る