第6話 空白地帯

六角形の穴は意図的に作られたものであろう。ならこれは鍵穴か?父の持っていた物に鍵となるものは…あった。私がプレゼントした水晶だ。

自分が拾った水晶が鍵になるかと言われれば否定したくなるが、それ以外に同形状の物も見当たらないので引き出しから水晶を取り出し両手で握り締めながらも願う。


「父さんは何を残したの?」


指の隙間から光が漏れた様に感じたが気のせいかと思い、手にした水晶を戸棚の穴に差し込む。


「なんだ、何も起きない…!?」


諦めて他に鍵がないか探しに行こうと横にずれた瞬間、戸棚が前方に倒れたのである。人が挟まれれば抜け出せそうにないような質量を感じさせる音を立てて。


「ちょ、ちょっと!何これ。罠!?私を殺したいの、父さんは!」


もしも戸棚の前を探し続けていたら、村の端にある我が家だ。音も届かず誰も見つけてはくれずに確実に床のシミになっていただろう。あの人は娘の息の根を止めたかったのかと冷や汗をかきながら戸棚に戻る。

少し床の強度が心配になりながらも戻ってみれば、戸棚の後ろに予想通りにあったのだ。隠された空白地帯、その入り口が。

恐る恐る入ってみる。そこは何年も掃除されていないとは感じない綺麗さを残した通路、それに下へと続く階段があった。下を覗き込みながら灯りになる物を持ち込もうかと考えていると足元から影が伸びてきている。

「あっ」そう声を漏らす前に戸棚は元の位置に戻り、つま先にコツリと硬いものが当たる音がする。暗い。昏い。森の中を思い出させる闇に少女の鼓動は早くなり、現実逃避をしようと頭を下げる。すると視線の先に薄ぼんやりと光る水晶が目に止まる。慌てて握り締めるように手にすると通路や階段、その先までが昼間の様に明るくなるではないか。


「これって…魔道具?でも家にそんなものが有るなんて聞いてないけど」

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