第5話 遺品
逃げよう。
そう考え出したら擦り減った自身の内から力が湧き上がってくる。さっきまでの無気力が嘘だったかの様にベッドから飛び起きる。
逃げるとしたら何がいるのか。
食料、野営道具、他の村や町で生活するための資金。先の2つは常に揃えてあるので問題は資金である。歴史のある村といっても他の村と交流があるわけでもない。その前に“他の村“を知らないし行商も来ない。村の外は父からの子守唄代わりの話でしか聞いた事がない。
それなら父の遺品を探そう。父の部屋には亡くなってからは軽い掃除のために入るくらいしかしてこなかった。もしかしたら他所から持ち帰った資金になりそうな物があるかもしれない。
そう思って父の部屋を探るも、机や戸棚、ベッド以外には父が猟に使っていた道具や趣味で彫った不出来な置物、服といったものしかなかった。机の引き出しをら開けてみると、幼少期に父にあげた六角柱の綺麗な水晶や押し花が大切に保管されていた。
「父さん…」
感傷に浸っているとある事に気付く。部屋が狭い。
実際に狭いのだが、父の部屋と隣の部屋との間が違和感があるかないかのギリギリの空白地帯があるように感じるのだ。廊下に出て隣の部屋と歩数を測ってみると人が一人倒れる程度の隙間がある。
「…父さんは何かを隠してる?」
先刻まであった逃避思考はどこかへ吹き飛び、少女は謎の空白地帯に入る方法を探すのに夢中になっていた。空白側の壁にある物は戸棚だ。戸棚は床に固定されており大の大人が押しても引いても動きそうにない。ならば戸棚に仕掛けがあるのかと探ってみると戸棚の置物の裏に影に隠れて穴が空いていた。六角形をした穴が。
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