第4話 逃避

空が明るみ出してきた時間帯。討伐隊の面々はどうにか村へと帰る事ができた。怪我をしている者は暗闇で見えなかった木の根に躓いて転んだり木の枝を顔に引っ掛けた程度だ。無事の帰還と言ってもいいだろう。

ただし心が無事であるかといえば全くの否である。

森で木の実や野草等を手にして生きてきた少女は本格的な狩りの経験は皆無であった。やったとしても小さな罠で野鳥や小動物を捕まえる程度。大型の獣の狩りなんて父に聞いただけである。

行きは先頭、帰りは殿を務めさせられた少女の精神はすでに8割ほど折れていた。道中ではこのままフッと死んでしまった方がどれだけ楽かと考えている時さえあった。

討伐隊の解散前にリーダーが言った。次は1日置いた明日の夜と。他の人達はそれなら問題ないなと話し合っていたが私は違う。


無理だ 無理だ 無理だ 無理だ 嫌だ 嫌だ 嫌だ 嫌だ!


極限まで張り詰めさせられていた少女の精神は明夜に再び実施するというリーダーの発言により完全に砕けてしまった。

いつ帰宅したかも記憶にない状態で少女は自宅のベッドに倒れ込んでいた。開いた目には何も映らず、追い詰められた状況から投げ出す事しか考えていなかった。

…そうだ。そうだよ、逃げよう。逃げればいいんだ。

一度考えだしたらもう止まらなかった。そうだ、何で村の為に死にそうな目に合わなければいけないんだ。村が何を私にしてくれた?父が死ぬ前は話しかけても来ないで、父がいなくなってからは悪口しか言わない。そして今回は魔物が潜んでいるかもしれない森への囮。この村が何をしてくれた。いいや、何もしてくれていない。それどころか私の命さえ奪いかねない。それならば逃げ出して何が悪い。いいや悪くない。

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