第3話 摩耗した心

こわい 怖い 恐い コワイ


松明が無ければ伸ばした手もまともに見えなくなる程に光の少なく昏い森の中、木の根に躓きそうになりながらも牛の歩みで進んでいく。昼間は森の恵みを分けて与えてくれる森が、夜では私の全てを暗く塗り潰してしまうかの様な恐怖を絶え間なく私に与えてくる。


なぜ どうして 私のせいじゃない


心の中で何百回と呟いた疑問を答えてくれる者などいる訳もない。

明かりを片手に、死が先の木の後ろで待ち構えているかもしれないような森を私を先頭として討伐隊が進んでいく。


がさっ


「「!?」」

討伐隊の面々は武器を手にし、物音がした暗闇へと目を凝らす。

「…半端者、明かりをそっちに向けろ」

いつも怒声をあげるリーダーも今ばかりは普段の声よりも小さな声で命令をしてくる。腰が砕けそうになりながらも私は松明を音の鳴った方はと掲げる。


きゅん!きゅん!


一頭の雌鹿の姿がそこにはあった。警戒音であろう鳴き声を上げた鹿は跳ねながら暗闇の先へと姿を消していった。

「…ふぅ。ただの鹿かよ、驚かせやがって。」

リーダーの声に一気に緊張が和らいだ討伐隊は深い安堵のため息をして、早鐘を打つ自身の心臓を落ち着かせいく。私も、今にも座り込んでしまいそうになる気持ちを抑えるように一度深呼吸をする。


「これ以上先は狼や熊の領域だ。今夜は引き返すぞ。半端者!お前は殿だ!」


今夜の探索はこれで終わりとなるも、殿という死が綯い交ぜになった暗闇を背にしながら他の人達の為の最初の犠牲になる位置を指名された少女は、自身の普段よりも早く打つ心臓の音を聴きながら森を歩いていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る