第19話 怪談:逆効果ツナ缶
私の知り合いに、
アレルギーではないけれど、
魚の食べられない女性がいる。
とにかく魚料理がダメで、
刺身、煮魚、焼き魚、
魚の味がするのは受け付けないらしい。
見た目かなとも思った、
生臭いのがダメなのかなとも思った。
好き嫌いを無理やり直す必要もないし、
食べられない人もいるよねと、納得している。
その魚嫌いの知り合いは、
大学で知り合った。
大学は田舎にあって、
地形的には山と海に挟まれている。
海の幸も山の幸も食べられる町ということで、
それで町おこししたいらしいけど、
まだ結果は出ていない。
魚嫌いの彼女は、山の幸が大好きで、
山菜もキノコも、それから野菜も。
大好きでよく食べるけど、
魚は食べたとがない。
ある日。
私はお弁当に、おにぎりを持ってきていた。
学食でもいいし、特にこだわりがあったわけではない。
ただ偶然、魚嫌いの彼女が、
ひどく顔色悪くしていたので、
声をかけたのも、普通の行動だと思う。
「おなかすいたの…」
細い声でそう言われたので、
私はおにぎりを一つ、彼女にあげた。
ただの親切心からの行動だ。
しかし、彼女が一口食べた後に気が付いた。
おにぎりの具はツナマヨだ。
彼女はとりつかれたように、おにぎりをほおばり、
瞬く間に一個間食。
「すごくおいしかった。ごちそうさま」
丁寧にお礼を言われて、
「そういえば、具材は何だったの?」
私は答える。
「ツナマヨ。マグロの油漬けとマヨネーズ…」
彼女の顔が凍り付き、
まずいことしたなと私は思った。
そして彼女が話し出したのは、
「私ね、足があるけど人魚なの」
「はい?」
「だから、魚は同類だから、共喰いしちゃいけないの」
私はきっと間抜けな顔をしていたに違いない。
「海から出て、憧れの山菜も食べられたけど、そっか…」
続けて彼女が言うには、
「魚ってこんなにおいしかったんだ」
ツナ缶は逆効果。
魚嫌いの彼女はその日から、
この町の海の幸もバクバク食べている。
人魚かどうかはわからないけれど、
海に帰る気はないんだろうなと、私は思っている。
時々服の袖や襟から鱗が見えているけど、
多分そういうものなんだと思う。
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