第18話 怪談:いまどきの回数券
通勤通学ラッシュから外れた時間。
学生をやめかけている私は駅にいた。
学校がしんどくて、それでも家にはいられなくて、
友人はいなくて、行き場がなくて、
非行はしないけれど、たぶん不良だ。
だらだら地方都市の駅を歩くと、
ふと、見慣れないものが落ちていることに気が付いた。
拾ってみると、
「回数券?」
スマホで調べると、
特定区間を指定して、10枚分の料金で11枚つづりらしい。
1枚お得なのか。
納得したところで、その回数券を見る。
1枚使われたらしく、10枚つづりで、
『現実→夢』
とあった。
不意に、この現実から逃げたくなった。
そうだ、夢に逃げられたらどんなに素敵だろう。
だらだら駅で時間をつぶすだけの現実から、
素敵な夢に逃げられたら。
素敵でなくてもいい。
ただ、深く眠りたい。
休みたい。
走り続けなくては倒れるような、
そんな、いまどきという時代から逃げ出したい。
私は回数券をじっと見る。
夢。
現実の対として生き先になっているけれど、
私の夢って何だっただろう。
将来の夢として、小学校あたりは作文も書いたかな。
何になりたかっただろう。
あの頃は未来が輝いていた。
将来は夢であった職業に就いて、
笑顔で働く大人になれると信じていた。
どこでこんな道を歩くことになっただろう。
自分は何になりたかったんだろう。
「おや」
声がした。初老の男性の声。
「ああ、あなたが拾ってくれましたか」
「これ?」
「はい」
男性が探していたのだと判断して、回数券を渡す。
「お礼と言っては何ですが、1枚使いませんか?」
それは、夢に行ける回数券を、だろう。
男性は回数券を切り離し、1枚渡す。
私は受け取り、しげしげと見つめ、
びりびりに破いた。
「私、その路線に乗って、夢には行かないと思うので」
私は楽ができない性分らしい。
私はその場を離れ、一度家に帰ることにした。
昔の夢を思い出すために。
そして、初老の男性は消え、
回数券は1枚減ったまま、
また、駅のどこかにひっそり落ちていた。
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