第13話 怪談:試薬農場
広い大地。
そこに農作物を育てる畑と、
家畜を育てる、いわゆる牧場がある。
空は青く。のどかに鳥が飛んでいて、
雲がぽっかり浮いている。
この農場は、ある種の実験施設でもある。
昔、この大地に危険な物質を使う工場があり、
事故が起きて大変なことになったらしい。
そのあと、工場が何年もかけて解体されて、
死の大地となったそこが、
また使えるようになっているかを確かめるため、
畑や牧場、いわゆる人間以外の生き物を住まわせ、
危険物質を感知するための試薬として育てている。
雌鶏は卵を産み、
畑の小麦は収穫を待っていて、
牛の柵の中には、
かぼちゃが育っている。
この農場を管理しているのは、
人間でないとされた人間。
どこかが欠落していたり、
どこかが平均以下になっている人間。
この農場に普通の人間はいない。
片手を事故で失った青年は、
この農場の話を聞いて、志願してここにやってきた。
死の大地に命を。
そういった触れ込みもあったけれど、
片手を失ったことで、もう、青年は死ぬ気だった。
死ぬならば、何かしてから死にたい。
どん底でそれだけを思ってやってきた。
青年は農場で働き、データをとる。
権力者はこのデータを何に使うのだろう。
やっぱり死の大地だというのかもしれないし、
我々の政策で復活しましたというのかもしれない。
どっちでもいいと青年は思う。
ただ、この農場には、
命の力が満ちていると感じる。
危険物質がどんなものだったかは知らないけれど、
植物も動物も、
みんな生きていて心地のいい場所だ。
青年が農場にやってきて数年。
青年に片腕が再生した。
青年はそれを報告しなかったけれど、
かつてここで生産されていた、危険物質を薄めると、
生体の再生能力が上がることを、
青年は知らない。
命に満ちた農場は、
そんなことも知らずに生き生きとしている。
ここは楽園なのかもしれない。
青年は、そんなことを思った。
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