第8話 怪談:コンタクトレンズ魚
僕らは、空気の底を泳ぐ深海魚。
物の例えだけど、
海の底に深海魚がいるように、
僕らは空気の底を泳いでいる。
深海と違うのは、
過剰な光に包まれていること。
昼も夜もなく。
僕らは光の中で生きている。
その光は屈折して、僕の目に届く。
僕はコンタクトレンズをしているけれど、
みんなに同じように光が届いていると、
それは誰が決めるのだろう。
みんな違う目を持っているのに。
光が良いもので闇がよくないものと誰が決めた。
僕は夜の街を歩き、
空気の底から、
ビルの隙間を見る。
闇は深く。空気の果てすら見えない。
星までどのくらい遠いのだろう。
月は闇の隙間のように、
かろうじて夜空に見える。
光が届くまでどのくらい。
僕の魚のうろこのような、
コンタクトレンズに光がやってくるまで、
その光速のラグは、
誰とも違うはず。
同時に光がやってくることなんてない。
ふと、コンタクトレンズに違和感。
目薬をしようかとポケットを探す。
一瞬、ぼやけた視界に、横切って行ったもの。
過剰な夜の光を屈折させる、
色のない魚。
魚は悠々と泳ぎ、僕たちに関せず空を飛ぶ。
光を屈折させて、上へ下へ。
海の底でそうしているかのように。
気が付けば魚の仲間が増えて、
僕の周りで、色のない魚が群れを成している。
大きな魚もいる。
ああ、魚が生きている。
この海の底、魚が生きている。
これはきっと、僕の目だから見えた魚なんだ。
誰も知らなくていい。
光は誰にも降り注ぐけれど、
誰も同じものを見ているわけじゃない。
僕は目薬を差し、
瞬きを数度。
コンタクトレンズは落ち着き、
夜の街はあるべき風景。
見えないけれど魚がいるはず。
見えたのは偶然なのか。
コンタクトレンズの気まぐれなのか。
僕の目には魚のうろこのような、コンタクトレンズ。
ここは空気の底。
僕は空気の底の深海魚。
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