第7話 怪談:休眠コンテスト
知る人ぞ知るコンテスト。
その名も休眠コンテスト。
睡眠でなく休眠。
わかりやすくざっくり言うと、クマの冬眠に近い状態。
生きていることも最低限にして休むこと。
その休眠コンテストは、
技術などをフル活用して、
次の世代に種を存続させる方法を模索したり、
治らない病の患者を休眠させて、
治る技術ができてから覚醒させるなど。
そういったことをコンテストと銘打って発表している。
いくつも休眠を研究した発表がされる。
失敗したものも発表される。
失敗を共有すると、次に生かせるという考えかららしい。
失敗に当たって死んだ命もあった。
動物レベル、植物レベル。人間が死んだ事例もなくはない。
それでも彼らは休眠を研究し続ける。
一部の人間が必死になって研究したことが、
のちの世に当たり前の技術になることを、
研究者は知っている。
だから、研究者は自分の命も賭けられる。
そうして失敗して死んでいった研究者もいる。
彼らの究極の休眠。
それは、永遠に限りなく近いもの。
生き物が生きている時間だけでなく、
例えば地球がなくなっても、
例えば宇宙というものが変質しても。
休眠をし続け、
次の命がどこかに現れるとき、
休眠の終わりが来るくらい。
億の単位を超えるくらいの長い休眠。
それができたら。
それが彼らの遠い目標だ。
今回の休眠コンテスト。
最後の発表者がステージに上がる。
白髪であるけれど、しゃんとした老人だ。
彼は一言目にこう言った。
「こんにちは、50億年後の諸君」
会場がどよめき、老人は言う。
曰く。
老人は今まで休眠していた。
命が発生し、滅んでいくのを何度もデータで知っていた。
50億年経って、ようやく会話のできる命が生まれた。
そのタイミングで休眠の時間を終え、ここに立っている。
「会いたかった。ずっと君たちと話がしたかった」
老人は涙を流す。
しかし。50億年に肉体が付いていかなかったのか。
老人は涙一滴流して、灰になった。
50億年の孤独な休眠。
人がまだ越えられない壁がある。
研究者はいつかその壁を越えるのか。
人である限り越えられないのか。
研究者にも、涙はあるのだ。
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