第3話 告白の決意

 プールの日から数日経った。


 ソラとは大きなイベントもなく、いつも通りの日を過ごしていた。


 だけど、この日だけは、違った。


 ソラが二人で帰りたいと誘ってくれた。


 胸がドキドキした。


 俺はうれしくなり、素直に誘いを受けた。


 が、二人きりになって、ソラは、開口一番に言った。


「アツシ、パパさんのことをもっと教えて」


「え——」


 俺は驚き戸惑う。


 なぜ父さんのことを知りたがるのか?


 俺じゃなく。


「なんで」


「パパさんね、とっても素敵な人だなって思うんだ。

 別に深い意味はないよ」


「……」


 ソラの表情は不思議そうで、瞳がキラキラ輝いていた。


「パパさんとママさん、家ではどんな感じ?」


 頭の中がぐるんぐるんと回る。


「ええと……ソラ」


「なあに?」


 ソラの声は可愛らしく、頬がぽっと赤くなっていた。


「お前、父さんと、どんな関係なの?」


「……んー……」


 言葉に詰まるソラ。


 そして、いたずらっぽく笑っていった。


「わたしの好きな人、だったらどう思う?」


「そんなバカなことあるか!」


 俺は大声を張り上げた。


 ソラは目を見開き、動揺していた。


 しまった、と思った。


「……ソラ……ご、ごめん……」


「……わたしがパパさんのこと、好きになるのって、変、かな……」


 変なわけない、とは言えなかった。


 父さんは俺にとって、大事な父親で家族だ。


 そしてそもそも、父さんは母さんと結ばれている。


「ええと……その……」


「……あっくん。変なこと、言ってごめんなさい」


 ソラは謝罪する。


「冗談のつもりで言ったの。

 そうだよね、ママさんに悪いもんね」


 演技や冗談には見えなかった。


 本当に申し訳なく思ってるかのようだった。


「じゃあね。ありがと、話聞いてくれて」


 そのまま呼び止める間もなく、ソラは帰り道を走っていった。


***


 その日の夜、ソラの家に向かおうとする父さんに尋ねた。


「父さん、なんでそんなにソラと仲いいんだよ」


 父さんはしばらく沈黙してから、俺に告げた。


「アツシはそう思うか」


 父さんは俺の隣に立つ。


 そして小声で話しかけた。


「もしソラのことが好きなら早く告白したほうがいい。あの子に彼氏が出来てからじゃ遅いぞ」


 俺は体を震わせた。


 得体のしれない不気味さを感じたからだ。


「どういうこと……父さん?」


「女子の成長は早い、ということさ。

 ソラは確かに僕を男性として意識している様子だ」


 大人相手に恋するなんて、俺には信じられなかった。


 それがよりにもよって、自分の父に対して、考えもしなかった。


「アツシ、結果はどうであれ、君なら乗り越えられるはずだ。

 がんばれ」


「……」


 そして父さんは「そろそろ時間だ」といって玄関に向かう。


 父さんがソラの家に向かうのを見送った。


 話題をそらされ、二人がどんな関係なのか聞くことが出来ないままに。

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