第2話 プールでの出来事

 土曜日の休みの日、俺とソラは一緒に遊べなかった。


 俺の心はちょっと寂しくなった。


 父さんとソラが一緒に勉強する約束だったらしい。


「ソラ、何してんのかな」


 別の友達と遊び終わった俺は、一人部屋にいた。


 寂しさが俺の心を押し潰しそうだ。


 ピピピ、とスマホが鳴った。


「ソラから電話……?」


 スマホを手に取る。


「ねえアツシ、ちょっといい?」


「なんだ?」


「明日一緒にプールに行きたいけど、どうかな?」


「え!」


 僕の心が踊りだした。


「ダメ?」


「う、うん……行くよ」


「うん、良かった」


 電話から小声でソラがべつの相手と会話し始めた。


『アツシ、行くって』


『それは良かった、きっと楽しい日になるよ』


『うん、とっても楽しみ』


 俺はつい電話から尋ねた。


「誰と話してるの?」


「あ、パパさんが横にいてね」


 電話の声が父さんになる。


「アツシ、父さんだ」


「父さん、ええと、どういうこと」


「今ソラの家で勉強を教えていたところさ。あと、プールの件だが、一応僕が保護者としてついていくから」


「……そう」


「楽しい日にしよう。な?」


 僕はしぶしぶ了承するのだった。


***


 プールに行く日、僕とソラ、そして父さんの3人で出かけた。


 俺と父さんは着替えを済ませ、プール場に来た。


「おまたせ」


 そしてそのあとすぐに、ソラが来た。


 ソラはラッシュガード——つまり水着の上に上着を着ている。


 つまり、肌の露出は少な目だった。


 それがまた、ソラらしいなって、俺は思った。


 もともと目立つのは苦手な奴だったからだ。


「じゃあ僕はその辺にいるから二人で楽しく遊んでいなさい」


 そういって、父さんは離れていった。


 俺とソラは二人きりになった。


 心踊る二人きりの時間である。


「……パパさん」


 父さんの後ろ姿を見つめるソラに話しかけた。


「それじゃ、一緒に泳ぐか」


「ええ、そうしましょ」


「あ、あとでっかい浮き輪あるから」


「ふふ! 楽しそうね」


 夏の日差しの下、ソラの笑顔が一層輝いて見えた。


***


 僕たちは仲良く遊んでいた。


 がしかし「よお! アツシ」と声がかけられた。


「ケント、なんでここにいるんだよ」


「プールで遊びに来たんだよ。サトルも一緒だぜ」


「マジで」


 想定外の邪魔が入ったことに、俺はイライラしていた。


「ケント君、こんにちわ」


「お! ソラちゃん!

 ……あ、もしかしてお前、ソラちゃんと一緒にデートしてたのか?

 おーいサトル! アツシがソラちゃんとデートしてるぜ!」


「えーほんとぉ」


 サトルまでこっちに来た。


 この二人とは仲良しだが、こういうのは勘弁願いたかった。


「ねえ、あっくん」


 すると、ソラが俺に話しかけた。


 ソラの声には申し訳なさそうな感じがあった。


「わたし、疲れちゃった。ちょっと休憩するから3人で遊んでて」


「あ、あぁ」


 ずいぶん遊んだし、疲れてもおかしくはなかった。


 しかし、自分はまだ泳ぎ足りなかったし、何より気の合う友人と一緒に遊びたい気持ちもあった。


「じゃあ、ケント達と遊んでるから、元気になったら来いよ」


「うん」


 そして僕はその友達と遊び始めた。


 その後すぐ、ソラが父さんの元へと向かった。


 二人は何やら話し込んでいて、僕は少し気になっていた。


「……」


「アツシ! ビーチボールで遊ぼうぜ!」


 ケントの声で気を取り直し、僕はケントたちと遊ぶことに集中した。


 しかし、どこか心に引っかかるものがあった。


 ソラとの時間が減ってしまうことに、少し寂しさを感じていたのだ。


 遠くで父さんと話しているソラの姿をちらりと見ては、ソラの様子が気になって仕方がなかった。


「アツシ、ちゃんと楽しんでる?」


 サトルの声で僕は現実に引き戻された。


「あ、うん。楽しんでるよ」


 そしてもう一度ソラ達の方を見ると、二人はいなくなっていた。


(あれ、どこに行ったんだ?)


「おい、ボールそっち言ったぞ!」


「お、おう!」


 3人で遊びながらも、俺の心の中はソラのことでいっぱいだった。


***


 しばらくプールで遊んだ後、我に返った。


「もうこんな時間だ! じゃあな!」


 俺はケントとサトルと別れた。


 俺は心がざわつくのを感じた。


 結局ソラは休憩から帰ってこなかった。


 プールを見渡してもいなかった。


「どこにいったんだ」


 俺は仕方なく更衣室に戻った。


 スマホになら、なにか連絡が来てる可能性があったからだ。


 ラインに、父さんからメッセージが来てた。


【ソラと父さんは車に戻ってます】


 俺はすぐに着替えて荷物の準備して、車に走った。


 心臓が高鳴っていた。


「ソラ!」


 車内に、ソラと父さんがいた。


 ソラの笑顔が目に入った。


 窓ガラス越しで見えずらかったが、二人で仲良さそうに会話しているようだった。


「パパさん、■■■■■■■■」


「いいのかい」


「■■■■、一緒に食べようね。パパさん」


「楽しみに■■■■」


 僕は何だか複雑な気持ちになった。ソラは父さんのことをどう思っているんだろう?


 そのもやもやが、心にわだかまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る