あなたのパパが好きです

シャナルア

第1話 交差する視線

~アツシの視点~


 小学校の教室で、俺はソラと目が合った。


 ソラの瞳は輝いていて、まるでおとぎ話の中のプリンセスのようだった。


 だが、俺はすぐに目をそらしてしまった。


 心の中では、どうしてこんなにドキドキするんだろうと疑問に思った。


(俺とアイツはただの幼馴染で、別に好きとかそういう関係じゃねーし……)


「あっくん、今日は一緒に帰りましょ」


 ソラが声をかけてきた。


「いいって、俺、他の奴と遊ぶから」


 が、遠慮してしまった。


 なぜだろう、と自分でもわからない気持ちになった。


 ソラはちょっと残念そうな顔をしながら、笑顔で答えた。


「また今度ね、あっくん」


 その言葉に、言葉にならない不安を感じた。


 俺はソラが去っていく姿を見送りながら、胸の内にわずかな痛みを感じた。


 ソラは可愛い。


 おそらくこの学校で一番、飛びぬけて美少女だ。


 大人びた瞳と髪型が、俺にドキドキさせる。


 ソラを意識し始めた瞬間から、俺はソラといつも通りの関係じゃいられなくなった。


「一緒に帰りたかったなぁ」


 正直、俺は後悔した。


***


 家に帰ると、父親の康彦とソラがリビングで話していた。


 父さんは中学校の先生で、誰からも信頼されている。


 ソラにも優しく接していた。


「お帰り、アツシ」


「おかえりなさい! あっくん」


「……ただいま」


 ソラとは家が近所で、いつも俺の家に遊びに来る仲だった。


「でね、パパさん——」


「うんうん、なら僕が力に——」


 正直俺は少し嫉妬を感じた。


 父さんとソラ、あんなにも仲良くできて、正直恨めしい。


 前はこう思わなかったのに、今は正直いい気持ちじゃない。


「なぁアツシ」


 すると突然、父さんは俺に提案した。


「アツシ、僕が教えるから、ソラと一緒に勉強するかい?」


 勉強という言葉に、俺は顔をしかめて答えた。


「はー勉強したくねーし」


 勉強が好きじゃないのは本当。


 ただ心の中で、ソラと一緒に勉強するのが恥ずかしいと感じてたかもしれない。


 父さんは苦笑しながら言った。


「そうか、わかった。また今度だね」


 ソラも「あっくん、残念ね」としょんぼりして言った。


「う……」


 空の言葉に心揺れたが、素直になれなかった。


「それじゃ、僕たちはソラの家に行くから」


「は!? ここでやるんじゃないの?」


「ソラちゃんが勉強に集中しやすい場所が必要だからね。なら自分の部屋がいいだろう」


 俺はソラの顔を見る。


 笑顔で手を振りながら言った。


「またね。あっくん!」


 その後、父さんとソラの二人で、ソラの家に向かった。


***


 夜遅くになっても戻ってこなかったが、とうとう父さんが一人で帰宅した。


 母さんが父さんに尋ねた。


「遅かったわね、どうしたの?」


 父さんはにっこりと笑いながら答えた。


「ソラちゃん、中々集中して勉強してたからね」


「……?」


 そのとき俺は、父さんから石鹸のにおいを嗅いだ。


 しかし、その時は特に気に止めなかった。


 何かの勘違いだろう、と思ったからだ。


***


 次の日、俺は放課後、ソラと一緒に遊ぼうと決心した。


(前までの自分とはお別れだ。これからもソラとは友達のままでいいじゃないか)


 しかし、その日はソラが康彦と勉強をしていることになっていた。


 心の中で、父さんとソラの距離が近づいていることを少し心配していた。


「そ、ソラ、今日、俺たち一緒に遊ぼうよ」


 俺は緊張しながらも声をかけた。


「いいね。何して遊ぶ?」


「ええと……とにかく公園で遊ぶぞ」


「うん!」


 学校が終わってから、僕とソラは公園で遊ぶことにした。


 ブランコを二人揺らしながら、遊ぶ。


 俺はソラと一緒に遊べて幸せな気持ちになった。


***


 しばらくすると、父さんが公園に来た。


「ソラちゃん、もうそろそろ家に帰ろうか?」


 父さんが言うと、ソラは「はい」と答えた。


「それじゃあソラ、一緒にかえろ——」


 俺はソラ一緒に帰ろうとしたが、康彦が僕に向かって、言った。


「アツシ、君は先に帰っておいで。

 ソラちゃんと僕は、ちょっと大人の話があるから」


「大人の話ってなんだよ」


「ソラちゃんの進路の話。うちの中学校に入りたいそうなんだ」


「え……でもそこって私立でお金かかるんじゃ……」


 地元にある私立の中学校は進学校として有名だった。そして父さん——康彦はそこの教員だった。


「まあ、そういう話も含めて、大人の話さ。それじゃアツシ、またな」


「……はーい」


「あっくん、今日は楽しかったよ。また学校でね」


「……うん、またな」


 僕は疑問に思いながらも、父さんに言われた通りに家に帰った。


***


 父さんは家に帰ってきたとき、すでに夕食が終わっている時間だった。


「すまんな。ついでに勉強を教えていたら遅くなってしまった。」


 俺は、二人でどんな話をしていたのか、想像するだけでもやもやした。


***


 翌日、放課後にソラが僕に話しかけてきた。


「アツシ、聞きたいことがあるの」


「何?」


「アツシは、パパさんのことどう思う? 好き?」


 急な話に俺は内心驚く。


「どうしてそんなこと聞くの?」


「ええとね、なんか気になっちゃって」


 なんか、ってなんだよと思った。


 父さんとソラとの関係でもやもやしてる中、ソラから父さんのことを聞かれて少し腹が立った。


「あのね……わたしには父親がいないから」


「あ……」


 その言葉を聞いて、冷静になる。


 ソラには父親が居ない。


 ソラのお母さんが、一人で頑張って働いているらしかった。


 なら確かに、父さんのことが気になってしょうがないのかもしれない。


「……俺は……父さんのこと、普通に好き。

 優しくて、かっこよくて、でも時々ムカつくところもあるけど……まあそんな感じ」


 僕は正直に父さんへの好意を伝える。


「ありがとね、わたしもパパさんのこと好きだよ」


「え」


 正直、ドキリとした。


 そういう意味に感じたからだ。


「あ、べ、別にそういうことじゃないからね。

 ……ちょっとあこがれてるだけ。それだけだから」


「ふーん、ああ、そうかよ」


 俺はブスっとしたが、内心安心していた。


 これからもソラとの友情を大切にしよう。


 そう思ったのだ。

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