第10話:龍の眼
「う、うぅー」
(はて、何があったんじゃ?確かトイレにいって……そこから記憶がない。ここはどこじゃ?揺れているということは馬車の中か?)
目を覚ましたところは窓も何もない個室。ただ小さいベッドが近くにあるだけだ。揺れていることから、どうやら馬車か何かで運ばれているということだけはわかった。
「あっ、サンディちゃん起きたの?」
「シュティちゃんもいたんだ。ここどこかわかる?」
「ううん、わからない」
(ここには儂とシュティしかいない。恐らく儀式の結果をしって早速動いたというところじゃろうな。丁度よく
「そう、とりあえず待つしかなさそうね」
「う、うん。大丈夫、かな?」
「信じて待ちましょう。大丈夫よ。あの場には優秀な魔法使いが揃ってたもの。魔物討伐なんてちゃっちゃと終わらせて助けに来てくれるわ」
「う、うん。わかった」
シュティは不安そうにしていたが、どうすることも出来ない以上大人しく待つという選択肢を取った。
——ガチャ
そして数十分ほど経過すると、揺れが収まり扉が開いた。扉の先にいたのは全身真っ黒に覆われた男だった。
「降りろ」
「いやっ!」
「いいから降りろ!」
男が手を伸ばし、降ろそうとしてくるが、二人は拒否。しかし大人の力にはかなわず、手を引っ張られて外に放りだされた。
(ここは龍の眼!儂が遺言で間違えて伝えてしまった場所じゃな?ならばどうにかなるかもしれん。手足は縛られてないしの。さて、どうするか)
外は遺言でアレクサンダーが『龍の眼』と呼んでいた場所だった。確かに壁には巨大な龍の眼が埋め込まれており、今にも動き出しそうな雰囲気がある。正式名称は『魔導書庫』なのだが、龍の眼と呼ばれるのも仕方がないだろう。
目の前には龍の眼があり、部屋の外に繋がる通路は一本だけ。その道を先ほどの全身真っ黒な男が二人で塞いでいた。
「やぁ、サンディ。会いに来たよ。遅くなってごめんね」
「誰?」
そこへ胡散臭い笑みを浮かべた男がやってきた。髪色は赤みがかった銀、眼の色は薄水色で肌色は白く、体形は華奢。顔は良く整った中性的な顔立ちをしていた。
「あれ、もしかしてブルーメ僕のこと教えてないの?君のパパだよ。ビットレイ・リッター。そんな怯えなくて大丈夫だよ?安心して。そっちの君もほら。大丈夫だから。ね?」
(はぁぁぁ~、産まれてから一度も顔を見せなかったビットレイが何のようかのぉ。そんなこと言われてもアレクサンドラである儂としては赤の他人なんじゃから、信用できるわけもないじゃろうに)
「……」
「だんまりかぁ。まぁいいや。じゃぁ腕を出して。あぁ、大丈夫だよ。直ぐ終わるから」
「!?!?!?」
(はぁっ!?こいつ何をする気じゃ!?)
そういって腰にぶら下げていた短剣を抜いて近づいてくるビットレイ。それに驚いた二人はゆっくりと後ろに下がっていく。
「大丈夫、そんなに逃げなくていいんだよ?」
そしてついに二人は壁にまで追い詰められた。
「ならその剣を下げて。なんで私たちに向けるの?」
「ん?だって君たちに逃げられたら困るし、欲しいのは君たちの血だからね。この方が効率いいでしょ?」
(おかしなこといいおって。じゃがまぁ、その企みは叶わないがの)
「なーに、直ぐ終わるから安心して」
ビットレイが一歩踏み出す、と同時に、龍の眼が『ゴゴゴゴ……』と音を立てて開いていく。
「な!?何だ!?何が起こっている!?」
「シュティちゃん!逃げるよ!」
「う、うん!」
ビットレイが気を取られた隙に、二人は開いた龍の眼の先へと走り去っていく。
「くっ!逃がすか!ぐっ!?」
ビットレイたちもその後を追おうとするが、眼に見えない何かにぶつかり、中に入れなかった。
「はぁ、久しぶりに見たと思ったら、こんなところで何をしてるのかしら?ビットレイ?」
「ぶ、ブルーメ!僕に何をした!?」
そこにアレクサンドラの母、ブルーメが彼女らを助けにやってきたのだが、アクレサンドラとシュティはそのことに気づかず、ただひたすらに奥へ奥へと走っていった。
「何って、ただ結界を張っただけよ。まったく、男っていうのはこんな簡単な魔法もやぶれないのね。やっぱり父上が特別だっただけで、普通の男はこの程度よね」
「な、なんだと!?いや、あのドラゴンの群れはどうしたんだ!?」
「あれもあなたが仕掛けたの?ふふ、あれがドラゴン?おかしなことを言うわね。あれはドラゴンじゃないわよ。まぁ、確かにアレに釣られて下位のドラゴンもついて来てたけど、とっくに殲滅したわ。だいたい今この地には歴戦の魔法使いが揃ってるのよ?何のことはないわ」
「ばっ、バカな!?現にあれはドラゴンだとあいつが、ぐっ」
まだ何か言っているビットレイをブルーメは容赦なく蹴りつけた。
「あいつって誰かしら?」
「い、いえない」
「ふーん、この状況でよくそんなことが言えたわね」
いつの間にかビットレイと共にいた黒服の男二人は魔法で捉えられており、部屋には多くの衛兵が集まっていた
「し、知らないんだ!僕は何も知らない!ぐはぁっ!」
「随分とおかしなことを言うのね。まぁ、今は時間がないし後でじっくり聞くわ。あなたたち、任せたわよ」
「はっ!」
衛兵の手によって連れられて行くビットレイ。それを横目に、ブルーメは開いている龍の眼の先に進もうとした。
「ちょっ、主様!一人でいかないでください!せめて護衛を!」
と、そこへセバスが声をかけて止めた。当主が何があるかもわからない場所へ行かせられないと、必死に止めようとした。
「あらセバス。あなたも一緒にくる?」
「そうじゃなくて護衛を!」
「あなたがいるから大丈夫よ」
「あーもう!わかりましたよ!無理はしないでくださいね!」
止めようとしたのだが、どうあっても止まりそうにないブルーメにセバスが折れて、仕方なくセバス自身がブルーメについていくのであった。
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