第9話:ドラゴン
「状況は?ドラゴンの群れって本当?」
「はっ!現在、ドラゴンと思われる魔物の群れがこちらに向かってきております。街に到達するのは時間の問題かと!現在、冒険者と協力して住人の避難を行っております」
戦える貴族を引き連れ、屋敷から外に出たブルーメ。近くにいた騎士に状況を確認する。
「見えたわ。あれがそうね。ちょっと確認しましょうか」
「リッター閣下。私の識別魔法で確認したところ、大半がドラゴンもどきのようですが、数は500近くいます。ドラゴンは見える限りでは下位が1、2体かと」
ブルーメが魔法で群れの詳細を確認しようとしたところ、それよりも早く他の貴族が確認した内容を伝えた。
「そう。識別で有名なシュピオン子爵が言うなら間違いないわね。皆聞いてたわね!大半がドラゴンもどきとのことよ!ただ数が多いから気を付けてね!」
その一言でその場にいた貴族たちの緊張感が若干緩んだ。恐らくドラゴンもどきが大半だろうと想像してはいたものの、もし本当にドラゴンの群れなのだとしたら一大事件であるため、皆少々力が入っていたようだ。とはいえ、数が多いためそこまで気を抜くこともできないが。
「セバス。冒険者ギルドにいってCランク以上の冒険者を東門に集めるよう要請して頂戴。ちょっと数が多いわ」
今この場にいる貴族は30人しかいない。一人一人が魔法使いとして一流であるが、10倍以上の魔物を相手にするのは少々無理がある。もどきとはいえ、強さは数多くいる魔物の中でも上位なのだ。
「冒険者への報酬はどうしますか?」
「参加したら大銀貨一枚、1体討伐で大銀貨三枚でどう?」
「その半分でよいのでは?」
「まぁ、調整は任せるわ。いい感じにして頂戴」
「かしこまりました」
ブルーメはセバスに冒険者を集めるように指示。その後、貴族たちを複数のグループに分けて迫りくる魔物の群れに備えた。
「さぁ、私はドラゴンを狩りにいきましょうかね。『
ブルーメが魔法を唱えると、”ポンッ!”という音と共に大きなピンク色の花がその場に咲き、ブルーメは花の上に乗る。その後、花は宙に浮き、ブルーメを乗せてドラゴンの居る方へと飛んでいく。ドラゴンの手前に大量のナハモンが飛んでおり、ブルーメを襲ってくるが、彼女はまるで誇りを払うように軽く叩き落とし、何もないかのようにドラゴンに向かって一直線に飛んでいった。
「ふうん、随分と大きいのね。ドラゴンを見るのは初めてだけど、こうしてみるとナハモンとは全然ちがうのね」
『ガルウアアアア!』
ぱっと見で村一つ分くらいはありそうな大きなドラゴンが空を飛ぶ。色は煌びやかな青、更に青い炎を口から吹いているのが見える。ナハモンの姿形は確かにドラゴンとよく似ているが、サイズは目の前のドラゴンと比べれば小さい。実際は目の前のドラゴンが通常よりも遥かに大きいだけなのだが、彼女は他のドラゴンを知らないため、そこまではわからなかったようだ。
『グワアアアア!』
空を飛んでこちらに近づいてくるブルーメの姿を確認したドラゴンは、ブルーメに向けて青い炎を口から吐き出した。
「『
ブルーメの前に大きな口が生えた真っ黒な花が現れ、ドラゴンのブレスはその大きな口に吸い込まれていった。そして全てを食べきり役目を終えたその花はゲップして消えていく。
『ガル?ガル!ガルウウアアア!!!』
そのゲップを挑発と受け取ったドラゴンは怒り、先ほどよりも大きくより威力の高いブレスを吐き出す。その青い炎は自分を挑発した人間を覆い、炎が通った後には何者も残っていなかった。
『ガル、ガガ!!ガガルルルルー!』
それを見て、自分を挑発して愚かにも燃えた人間を笑うドラゴン。
「随分と楽しそうね。何がそんなに楽しいのかしら?」
『ガルッ!?』
「『
先ほど燃やしたはずのブルーメが何故か目の前にいた。驚いたドラゴンは咄嗟に噛みついた。しかし、その体を噛み千切ったかと思えば、全て花弁となり口の中をすり抜けていってしまう。
『ガルゥ?』
「どこを見てるのかしら?」
『ガルッ!』
消えたかと思えば、次はドラゴンの頭上にブルーメが現れた。再び噛みつくも先ほどと同じように花となって消え、また別の場所に現れる。
『ガルルル!!!』
同じことが幾度となく繰り返され怒りが頂点に達したドラゴンは、どこに現れようと確実に燃やすため、全身から全方位に向けて青い炎を噴出した。
——ポンッ
『ガルル?ガル?』
しかし、その炎はあっという間に消えてドラゴンの頭から一輪の花が咲いた。
「『
——ポポポポンッ!
変化はそれだけにとどまらず、ドラゴンの身体を半分に割るように真っ青な花が咲く。
『ガル?ガルウウ!!』
自らの身体に咲いた花を燃やそうと、全身から炎を吐き出そうとするも一向に炎は噴出されない。代わりにドラゴンに咲いた花の根が、その炎に使われるはずだったの魔力を栄養に身体の奥深くへと侵食していき、花の裏側にまで根が伸びた。その頃にはドラゴンは既に息絶えており、”ドオオン”という大きな音と共に地面に落ちていった。
「ふぅ、上手くいって良かったわ」
ブルーメが地面におりてドラゴンの死体を確認すると、その体は真っ二つになっており断面は花の根で覆いつくされていた。
「にしてもこれはファイアドラゴンの変異種かしら?ドラゴンの割には思った以上に弱いわね」
実際は彼女が規格外なだけであり、普通はこんな楽には倒せない。先代当主のアレクサンダーがこの光景を見たら膝を落としたことだろう。”儂めっちゃ苦労したのに……”と。この場にその転生体であるアレクサンドラがいなかったのはある意味幸運だったかもしれない。
「まぁいいわ。まだ向こうが終わってないようだし、私も参加しましょうか」
そしてブルーメは空を飛んでナハモンと戦っている皆の元へと戻っていった。
——???
「ふぅ~、今日も疲れたわい」
薄暗い部屋の中、重厚な椅子に座った老人は葉巻をふかして一日の疲れを癒していた。その老人は立派な髭を生やし、貴族のような煌びやかな服をきた男性であった。
「報告します!改造竜3番体、通称ブルーファイアドラゴンが討伐されました!」
そんな中、若い男の兵士が部屋に入ってきて報告を行う。
「そうか。で、どれほどの被害を与えたのだ?」
「死者は0、重傷者が数名。ドラゴンはリッター家当主が単独で討伐。赤子同然に弄ばれてました」
「むぅ……確かに階位は下位のドラゴンではあったがそれほどか。やはり若いドラゴンではダメか。血は回収したのか?」
「はい。兵がいたため少量しか回収できませんでしたが」
「構わぬ。一滴ほどの血があればどうとでも作れる。ところでビットレイの奴はどうした?」
「子供を攫いにいったようです」
「子供を?」
「はい。今年の帝国東部の子供の中に、二人ほど王に匹敵する素質を持つ子が二人いたようで、今回の騒動の隙をついて攫うとか言ってました。連れ戻しますか?」
「別に良い。貴重な男性魔法使いであるお主をわざわざ危険な地に向かわせる必要はない。どうせビットレイの企みは失敗するじゃろうしな。ご苦労じゃったな。休むといい」
「はっ!失礼いたします!」
「さて、次の計画を立てなければな。このイカれた世界を正すために」
老人は葉巻の火を消し、暗闇の中へと消えていった。
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