第8話:襲撃

「~~♪?シュティちゃんも食べよ!」


「え、えっと、食べていいんです?か?」


「もちろん!とっても美味しいんだから!」


 一方その頃、アレクサンドラとシュティは中庭のガゼボでお茶をしていた。鼻歌を歌いながらご機嫌なアレクサンドラと、見たことない物しかない光景に緊張しっぱなしのシュティ。出された紅茶とケーキに手を付けてなかったことに気が付いたアレクサンドラはシュティに食べるように勧めた。


 シュティは恐る恐るといった感じでフォークを使い、ケーキを一口食べた。


「!!美味しい!です!」


「そうでしょ!」


 ビックリするほど美味しくて、花が咲くように笑顔になったシュティ。そして自分が勧めたものを美味しそうに食べる姿に嬉しくなったアレクサンドラ。ケーキを一口食べるごとに二人の間に笑顔が咲くその光景は、見守っていたメイドたちの顔がとろけそうになるほど微笑ましい光景であった。


「うぅ……もうない……」


「……そうねぇ」


 あっという間に食べ終わり、シュンとする子供二人。そこへメイドが『おかわりもございますよ』と声をかけると、二人は目を輝かせて『おかわり!』と声をそろえ、ケーキを満足するまで食べた。


「美味しかったね!」


「えぇ!美味しかったわ!」


 ただケーキを食べただけだが、それだけで何故かとても仲良くなった気分になった二人。いつの間にかシュティの言葉遣いはタメ口になっており、アレクサンドラも特に気にせずに雑談を楽しんだ。



「お楽しみの所失礼します。そろそろ夜会の時間ですので、おめかしを致しましょう。お二人とも、こちらへどうぞ」


「はーい!」


「えっと、私もです。か?」


「はい、シュティ様もご一緒にどうぞ」


「わ、わかりました」


 メイドが話しかけると、先ほどまでとは打って変わってこわばってしまったシュティ。リラックスできたように見えたが、それはアレクサンドラと二人だけだったからなのかもしれない。


 そんなこともありながら、メイドの手によって綺麗なドレスに着替えて可愛らしい姿へと生まれ変わった二人。迎えに来た二人の親はそれをみて危うく倒れそうになるほど可愛かった。もっとも、シュティの直ぐに我が子が公爵家の服を着ていることに気が付き、今度は別の意味で倒れそうになったが。



(こんなにも楽な気分で夜会に参加できるとはのぉ。儂がまだ子供ということもあるじゃろうが、それ以上に女であることが大きいかの。男であったときは本当に肩身が狭かったからのう)


「アレクサンドラ様、どうなさいましたか?」


「いいえ、何でもないわ。今日はお祝いの日ですから楽しみましょう!」


「シュティちゃん!こっちに美味しそうな料理があるわよ!」


「ふぇぇぇ~~!」


 夜会が始まり、アレクサンドラとシュティは貴族の子供たちに囲まれていた。アレクサンドラは公爵家の次期当主として、シュティは将来有望なリヒット家の嫡子として、様々な貴族が子供を彼女らの元に送り出していた。アレクサンドラは前世の経験もあって堂々としているが、気の小さいシュティは自分より位の高い貴族の子供に囲まれて目を回していた。




「子供たちは元気ですわねぇ」


「えぇ、全くです」


「あの子がリッター公爵家の嫡子ですか。堂々としていらっしゃいますな。これは次の代も安泰でしょうな」


「もう一人の子は少々気が弱いみたいね。というより貴族教育がちゃんとしてないのでわ?」


「彼女が属するリヒット男爵家が爵位を得たのはつい半年ほど前だったかと。貴族となって日が浅いのですから、仕方ないのでしょうね。今回のことでリッター家が何か手を回すことでしょう」


「今年は彼女たち以外にも何かと将来有望な子が多いみたいですね。将来が楽しみですわ」


「そういえば、精霊と契約した子がいたという噂もありましたが」


「あら?『精霊の祝福』を受けたのではなくて?」


「この光景を絵に残したいですわね」


「あら、それなら家でやってあげてもいいわよ?」


 夜会に参加している大人たちは、主に今日の儀式の結果について話し合ったり、商いの話をしたりと、様々であった。ただ、皆一様に表情が明るかったのは、今回の儀式の結果がいい物であったからだろう。特にリッター家の嫡子とリヒット家の嫡子は王家のそれと遜色ないものを叩きだしており、新たな時代が来ることを誰もが予感していた。



『ガオオオオオオ!!!!』


 と、そこへ魔物の方向が会場まで響いてきた。何事かと声を荒げたところに直ぐに兵士がやってきた。


「報告いたします!ドラゴンのがこちらに向かってきています!」


 その報告に大人たちは目の色を変え、子供たちはさらに怯えた。アレクサンドラだけは堂々としていたが。


(ドラゴンのとは珍しいのぉ。そのような話は聞いたことがない。いや、儂が貴族社会に疎かっただけで、実際はあったのかもしれんがの。少なくとも噂になるようなことはなかった。ま、大丈夫じゃろう。幸いここには魔境近くに領を持つ東部貴族の領主たちが集まっておる。まぁ、大半はドラゴンじゃろうし、仮に本物がいても問題ないじゃろう。何せここはドラゴンの墓なのじゃからな)


 彼女たちが今いるのはリッター公爵領の領都『ドラグラーブ』。別名、ドラゴンの墓とも呼ばれるこの街は魔境近くに存在し、時折魔境から魔物が溢れることがある。大抵はその原因がドラゴンであることが多く、代々リッター家の当主がこの地でドラゴンを討伐してきたことから、いつの間にか『ドラゴンの墓』と呼ばれるようになっていた。


 また、ドラゴンというのはドラゴンによく似た別種の魔物で、正式名称はナハモンという。彼らはドラゴンの姿を模しており、絵本や物語などで良く見る咆哮ブレスも使用するため、ドラゴンと間違えられることが多い。


 強さは本物には遠く及ばないが、それでも現在判明している魔物の中では上位に入る強さを持っている。ドラゴンとの違いは、そのドラゴン固有の魔法を使えるかどうか。固有魔法は個体によって異なるが、直近ではファイアドラゴンという炎を自在に生み出し、操るドラゴンの存在が確認されている。




「戦える者は私と一緒に来なさい!そうでない者はこの場に待機!絶対に外には出ないこと!いいわね!」


 ブルーメは兵士の報告を聞き、直ぐに行動に移した。戦う力を持つ貴族たちはブルーメと共に戦線へ赴き、その中にはリヒット男爵もいた。シュティは母親が戦地に行くことを心配そうに見つめていたが、リヒット男爵は大丈夫だよと頭を撫で、去っていった。



「あの、トイレに行っていい?」


「かしこまりました。案内いたします」


 外では爆発音や魔物の叫び声などが響き、多くの人が怯えている中、トイレに行きたくなったアレクサンドラはその辺の兵士に声をかけてトイレへと向かった。


「失礼」


「えっ?」


 トイレに向かう途中、何者かがアレクサンドラを襲った。無防備に攻撃を受けて気絶したアレクサンドラは、そのままどこかへと連れ去られていった。




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