第7話:支援の話
「さぁ座って」
「は、はいぃ。失礼します」
ブルーメはリヒット男爵を客室に迎え入れた。相変わらずオドオドしっぱなしのリヒット男爵の姿は、まるでリスみたいだとブルーメは思った。
「リラックスしなさい。貴族たるもの、如何なるときも堂々とするべきよ」
「は、はい。しし、失礼しました」
ブルーメはリヒット男爵の態度を注意したものの、相変わらずリヒット男爵の態度は変わらないまま。男爵になって日が浅く、元々貴族社会と縁のない生活を送っていた彼女なら仕方ない。ブルーメはそう思いつつも、今後もこのような有り様ではよくないので、彼女自身にも貴族教育が必要だなと考えていた。
「まぁいいわ。早速本題なのだけど、貴方の娘を家に預てみない?教育は家が責任をもって行うわ。もちろん、成人して跡を継ぐとなればそちらに返すわよ」
「で、ですがその、我が家は貧乏ですので、お金は払えませんし。そ、それにまだ親元を離すには早いのではと思うのです。せせ、せめて10歳まで待っていただけませんか?」
「別に強制している訳じゃないわ。ただ、家に預けたほうが安全だと言ってるのよ?国内の貴族は引き抜きにくるでしょうし、他国からは暗殺を仕向けられることだってあるかもしれないわ。うちに預けてくれればそういった煩わしいことは全部跳ね返せるわよ?それにお金頂戴なんて私言ってないわ。金銭の負担はリッター家が担うもの。気にしなくていいのよ」
あたかも『私はあなたのことを本気で心配してるのよ』という風に装い、リヒット男爵を説得しようとするブルーメ。しかし、リヒット男爵のガードは堅いままだった。
「な、なるほど。でで、ですがその……」
「子供と離れ離れになるのは嫌って?」
「はい……」
貴族らしからぬ発言、というより大人として恥ずかしい発言と思っているのか、顔を真っ赤にして俯いた。
「なら、貴方も家で過ごせばいいんじゃない?」
「なっ!そっ!そんなことをしては他の貴族に何と言われるか!」
男爵とはいえ一地方の領主に対して、他領の家で生活したらいいというありえない発言に、流石の男爵も声を荒げた。
「ふふ、冗談よ。そうねぇ……、家で預かるのは無理みたいだから。うーん、あぁそうだわ。家庭教師を貴方の所に送ってあげる。もちろんお金は家が負担するわよ。これならどう?受けてくれるかしら?」
「えっ、と、その。家からは何を出せばよいのでしょう?何も出せるものがないのですが……」
「確かに今のリヒット領には農地くらいしかないわね。でもね、この話を受けてくれれば、シュティちゃんが跡を継ぐ頃にはリヒット家は伯爵家になってるわ。あなたは一代で伯爵まで成り上がった女傑として語り継がれることになるのよ?」
「えっ、えっと?」
聞いたことに対する答えが返ってこず、困惑するリヒット男爵。リヒット領は村が3つしかない小さな領で、うち一つは山の近くということで魔物による被害が大きく収穫が安定しない。他の二つも収穫はそこそこ安定しているが、農地そのものはそこまで広くないため、大した収益になってないのが現状だ。今はまだ税金が免除されているが、来年からは税金を払わなければならない。しかし今の状況では税金を払うのもギリギリという状況。かといって開拓を進めようにも金がなく、今以上に金を稼ごうにも売れるものがなく、八方ふさがりな状況となってしまっている。
このような状況で『あなたは将来伯爵になる』と言われても困惑しかなかった。
「心配しなくていいわ。リヒット家が昇爵することそのものがリッター家にとってのメリットなの。あなたの所からは何も受け取らないわ」
「よ、よろしいのでしょうか?」
「えぇ、もちろんよ」
ただほど怖いものはない。しかし、今の話が本当ならあまりにも魅力的だ。家庭教師を雇うお金もないことはないが、それだって節約に節約を重ねてどうにかという状況なのだ。公爵家が負担してくれるなら安心である。ついでに言えば、『将来伯爵になれる』という言葉が彼女にとって非常に魅力的だった。終始ガチガチに緊張しているが、彼女に昇進意欲がない訳ではない。むしろ強いほうだ。貴族になったのも偶然ではなく、彼女が貴族になりたいと望み実力で勝ち取ったものだ。だからこそ、上に上がれるなら上がりたい。そういった思いが彼女の中を支配していた。
「よ、よろしくお願いします」
「決まりね!それじゃぁ契約書を渡すからこれをよく読んでおいて。明日サインしてもらうから。内容についてはこの後うちの家令から説明するわ。それじゃスチュワード、よろしくね」
「かしこまりました」
決断した後はトントン拍子で話が進み、あっという間に客室から出ていったブルーメ。契約という言葉を聞いて、彼女は一瞬『騙された!?』と思ったが、よくよく考えればまだサインしてないし、そもそも契約書だって読んでないのだから、判断するならそれからでも大丈夫なはずと考えなおし、まずは契約について説明してもらうことにしたのだった。
———あとがき——————
この世界は女性がメインですから、『
とはいえ、その辺の言葉を変えると、色々と変えないといけなくなって読みにくくなりそうなのでこのままいきます。
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